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第 七 章 * 5 / 5 

< 一応 大団円なんすが、終わらせて堪るかいっ! >

嶋田淳教授の最終講義は
上から三分の二に在ります。



< 大団円。 とは、お仕舞いって事や、ないか? >


この原稿。 入力された日が、ワシの最期の瞬間かも、知れん。 昔から、死ぬ
死ぬ、言うた者で、ホンマに死んだ者、ありゃあせんのよ!

そこが狙い目、だったりして。 しかしワシなんて、次の作、有る訳じゃあ無し。
この一作、仕上げれば。 オツムの中、空っぽになって、あと何んにもありゃあ
せん!


と、なりゃあ。 この一作に、何時(いつ)までもこだわる。 才能、ないから
仕方無いんさ。 この作品こそ、好い迷惑かも知れん。


卒業? ワシ、卒業したくなかった。 学費、年に四十万なら、このまま大学
に、ズーッと、居付きたかった。

私立の歯科大学。 学費の掛かるの、大(だい)なる欠点。 卒業ですら、只
(ただ)じゃあ、無いんだぜ!


一分会の諸経費。 模擬テストの受験料。 卒業式の後の謝恩会。 これ
ホテル、ニューオータニだ。

その辺の、公民館で、すんのと、訳が違う。 ショバ代(場所代)だけで、
何百万だがや。


あっ、そうだ! 国家試験で、二泊した、パシフィックホテル。 あれの宿泊代。
もち(勿論)、自分持ちだ。

それや、これやで、各自。 三十万なる費用。 卒業委員会に、払い込んどる
んや。


全体、百名だぜ。 総額、三千数百万の仕事だ。 ピンはね、ネコババ、有
ったんかな?

卒業して、半年後。 卒業記念、写真集ってえのが、カラー美装本で、来た。
まずは、感激しよう。 その後でワシ、ケチを付けたい。

では、まず。 感激! してみる。


< 卒業記念の、お写真集 >


卒業、記念の写真集! 想い出の、宝庫! 青春の、なつかしさ! あの無邪
気さ! あの無鉄砲さ!

行き過ぎも、あったなあ。 あの失敗の、悔しさ。 死ぬまで忘れないぞ。
ほろ苦い経験。 人知れず、がんばった日々。


一番の楽しさは、愉快な仲間との、時間。 勉学に、耽溺した、日々。 情熱
に燃えた、瞬間。

とに角、無我夢中だった六年間。 想い出は、走馬灯のように、と、言うけ
れど。 確かにあれは、陽炎(かげろう)かも、知れぬ!


実習は、しんどかったなあ。 テスト、テスト、テストの日々。 あの頃は、
こんな生活。 早く終われと、祈ったのに。

終って仕舞うと、寂しいかも。 大学生活って、特別の期間、なんだよ!


ワシみたい、五十代のオジンでさえ、尽きぬ思いに、涙する。 ましてや、青
春、真っ只中の二十代。

しびれる思い出、山ほど、作ったろう! 青春の頃って、じっとしてるだけで、
楽しい。


 *      *      *


大学生活。 五十代に経験するのも、善いけれど。 ここは、矢っ張り、しか
るべき年齢で、経験するのが、本筋だ。

桜の花は、早春に咲いてこそ、美しく、勇ましい。 真夏の、寒椿。 真冬の
麦わら帽子。


一度は、笑えるが。 笑いを、持続させる力は、無い。 ワシ、卒業が、五十
五歳。 ここからの、丁稚奉公は、悲劇かも、知れん。

大学は、上手いこと、通過したが。 さて、この体験を、人様(ひとさま)に
薦められるか? 考えてしまうのだ。


体力。 知力。 その他の、能力の総和。 十分なら。 まあ、いいか。 シ
ュバイツアーだって、五十代から、医学の道。

それで、あれだけの仕事をして、人生を終えた。 ワシみたい、体力の無い。
持病持ちでは。 ああは、行かん。


しかしだ。 ここまで来たんだ。 泣き言は言うな。 出来る範囲で、最善を
尽くすのみ。 それしか、無いじゃろが!

そうなると、この本、なんかも、その一環。 かも、知れん。 そうだ! 卒
業記念の、写真集だった。


今でも、夜中。 時々、出して来て、眺めてる。 いろいろ有る中に、飲む会
の写真の多いのが、笑える所、かも、知れんな。


 *      *      *


紙の本だとね。 ここで、お仕舞いさ! 奇麗に、きれーいに、書かないと
編集者。 首を、縦に、振らんのよ。

幸い、と言うか? 不幸にも、と、言うべきか? 諸君らは、これからの、い
けない所。 見てしまう。

ウエブは、只だから。 真実を、在りのままに、書いてしまったのよ!

いけない原稿。 もっと読みたい方は、この次の、裏本を、どうぞ。 ただし
ね。 人生の、免疫力の弱い方。 読んでは、いけません!


 *      *      *


< さて、ここからが、ワシの本番! 嫌味(いやみ)の始まりだ! >


明海大では、入試希望者に、願書と同封で、大学の紹介本。 郵送する。
これは、君らの大学が、してんのと、同じだ。

他の大学の事は、事情に疎(うと)いから。 良くは、判らんので、正確に
は、言えんが。


我が明海大、歯学部。 毎年、何名かの学生を、紹介本に、写真入りで出す
んだが。 あれの評判、すこぶるに、良く無いのだ!

何んでか? と言うと。 プロの、カメラマンが来て、立派に仕上げは、し
ても。 その、モデルにされる、女の子。

まるで、美人コンテスト! なのさ。 カメラマンの、お好みの、おニャン子が
採用される。


遂に、学生から、文句が出た。 すると、次の年。 まさに、どどブスの、
ご登場だった! あれ、ホンマに、いやらしかった。

その次の年、元の木阿弥。 またぞろ、カメラマンの好みに合う、美人の
コンテスト。


 *      *      *


ワシらの学年の結構な美人さん。 六年間で、三回も! お出まし。 カメラ
マンと、ひがな一日。

近くの名所や。 川越の町並み。 そんなんを、バックにして。 パチリ、
パチリを、やらかして来た、そうな。 諸君、これを、どう思う?


ワシが、大学の経営者なら。 そんなカメラマンと会社は。 直ちに契約を
解除し、二度と、相手に、しないね。

同じ事が、卒業写真にも、言えるのだ。 みんなを集めて、ハイッ、パチリ!
は、良いと、しよう。 問題は、個別の写真ですよ。


カメラマン。 講義中に、這入って来て。 至近距離。 カメラ、構えて。
シャッターを、切る! 問題は、この時の被写体。

お気に入りの学生に、しか。 カメラを、向けぬ。 あとの学生は、無視して、
撮らんのよ。


カメラ、向けるの。 可愛い女の子。 奇麗な女の子。 味な男子学生。

てな具合に、だよ。 カメラマンの、趣味に合う学生だけ! 写して貰える。


ワシ。 ムカッとして、睨み付けたんで。 もう、それこそ、カメラマン。
側にも、寄らなかった。

記念写真集。 カメラマンの趣味に合う者しか、写されては、いない。


言っときますけどね。 金出して、カメラマン雇ったのは。 学生の、ある日の
記念を残すのが目的で。 テメーの(カメラマンの)、芸術作品を、求め

てたんじゃあ、ねえんだぜ! ワシなら、こんな、不貞な了見のカメラマン。
その場で、首にする。


今、その写真集を、見るとさあ。 女の子で、写ってないのが居るんだよ。
ワシが、写っとらんでも(写ってなくても)。

そりゃあ、むしろ、良かった! で、済むが。 卒業式。 一番の成績で、ご卒
業。 理事長賞の女の子。



あの野郎(カメラマン)の、写真には。 全く、影も形も、出とらんのだ!



趣味に、合わなかったんでしょうが、繰り返す様に。 我ら、テメーの、
芸術写真を、求めてんじゃあ、ねえんだよ!

あくまで、我らの授業風景の、思い出作りに。 テメーと言う、カメラマンを
呼んだ、だけなんだぜ。 だったら、全員写らにゃあ。 どないすんねん!


これじゃあ、話しも何にも。 出来んじゃ、ないか! この写真集の責任者。
これを、何んとする? と言いたいが、

ここには、また、とんでもねえ、裏が、有るんだよ。 この写真集は、二分会
言うて。 女の子ばかりのグループで、編集したんだが、


彼女達が、自由に、写真を選択出来るコーナーが、在ってね。 そこ見ると、
見事に、自分たちの仲間だけ。 お気に入りだけ。

嫌な奴は、全てパージして。 あっち行けの基準で、写真を配列してある。


ワシ、言うたんよ。 君らは、勘違いしとんのと、違うか? 卒業写真集は、
二十九期、全体の物であるぞ。

君らの、好きと嫌いの場。 では、無いんだぞ! これでは、見識が、疑われる。
こんな事を、平気でする女の子。 善い人生は、送れんぞ!


彼女たちも、嫌な患者は治療しない! の、連中だろうか? こんな、潜在
意識の人間。

歯科医師にするのは、如何な(いかがな)ものか? と、言いたくなる。
好きと嫌いで医療をされては、かなわんぞえ! 違うかね? 諸君!


二十九期の、卒業記念写真集。 けちが付いてるんよ!


 *      *      *


< 食品の真実を語ると。 業者から命を狙われて、
                    はなはだ、危ない! >


十年以上、前でした。 我が、石川県。 金沢大学医学部の先生。 お年寄り
が、納豆を多食するの。 良くないと言う、論文。

月刊、文芸春秋に、載せました。 納豆業界、死活問題ですよ。 大抗議。
先生、へこまされて、敗退。


納豆には、ビタミンKが、多い。 ビタミンKは、血液の凝固に関与する因子
です。 血が、凝固すると、お年寄り。

脳の血管に、目詰まりを、起こし易い。 統計上、どうも、納豆の多食。
止めた方が、良い。 ってんで論文。 発表したのだ。


んですが。 納豆業界の、袋叩きに会い。 先生。 自説、引っ込められました。
ワシの、この解説文さえ。 ひょっとすると、

噛み付かれる、かも、知れません。 ワシ、言っときますが、納豆は毎朝。
きちんと、戴いて、おおります。 (強調してんのよ! 納豆業界の方々!)


理由は、納豆が無いと、朝めしにならん! からです。 脳血栓が、何んだいっ!
脳血栓が恐くて、納豆を止めろだと?

しゃら臭え事。 言うんじゃねえ! と、啖呵を切って、食べてます。

血液の、抗凝固薬。 ヘパリン。 なんかを、お飲みの方は、納豆が禁止
です。 ヘパリンが、無効になるからです。 この辺の事は、薬理学。

講義ノートに、書きます。



先日でした。 スーパーへ行くと、納豆のコーナー。 空っぽ! です。
さては、テレビで、何か、言うたな?

案の定、でした。 納豆を食すると、血液が、サラサラに成る! この番組の
直後から、日本中のスーパーの納豆。 飛ぶ売れ行き、でした。


朝、昼、晩に。 納豆! 納豆! 納豆! です。 浅ましや! これだから、
日本人は、あかんのです。

熱し易く、冷め易い。 日本の国旗。 白地に赤の、日の丸の旗と、同じです。
もっとも、ワシも、納豆ばかり、喰ってましたが。


 *      *      *


< 食べると、問題の生ずる食品。 外にも、仰山。 有るんすよ! >


グレープフルーツ。 病気のお見舞いに、持ってくなんて。 とんでも無い事。
なんすよ。

あれ、肝臓の酵素の働き。 阻害、すんのよ。 美味しいからって、毎日、毎
日。 食べるんじゃあ、無いって!


これは、薬理学の講義で出る、はなしです。 ワシが、グレープフルーツの業
者なら。 こんな講義を、する先生。

ゴルゴ13、雇って。 消してもらいまんがな!


ウチの大学の教授に。 タバコは、止めよう! 派が、居られます。 ある日、
講義で、言うのよ。

ボク、禁煙の講習会へ、行ったらね。 会場、タバコ産業の人で、一杯なんよ。
ボクがね。 禁煙の、禁! と、一言でも、言おうものなら、

会場は、殺気立ち。 ボク、今にも殺されそうな、感じ、なんよ。 異様な、
雰囲気でしたよ。


なるほど。 お金が、絡(から)むと、こうなると言う。 見本ですな。


 *      *      *


牛乳は、いけない! 乳化の操作で、酸化させとるや、ないかっ! マーガリ
ンも、酸化した、最低の食品で、あある! これは、さる、有名な、

内視鏡の専門医の本、でした。


乳酸菌の、発酵食品は、健康を、損なう? (損なう。 は、? か。
 ! か) ワシ、これの、書いてある本を、読んだ瞬間から、

あれ程、多食してた、ヨーグルト。 びたーっ! と、止めた。 牛乳も、飲
まなく、なった。 怖いでしょおお! よって、この続き、別の処に、書くね。


調子に乗って、書いてて良い問題と、違うからよ。


 *      *      *


< 指導教員は、ヒトラーか? はたまた、スターリンか? >


ワシ、英語は話せないが、読む事は、かなり読む。 いわゆる、リーディング
イングリッシュ。

も少し、上手くなろうとして。 ある先生の教室へ行った。 課外授業。
その先生の親切。 は、良いんだが、


大学院生を含む学生。 けっこう集まってるのに。 肝心の先生。 何時まで
立っても、来られない。

二時間、待ちぼうけた。 そこへ、ひょっこり現れて、先生。 君たち、今日
は、中止だよ。 研究発表の日が、近いだろ。 実験で、大変なんだ。

だったら、一言。 言ってよ! てな事が、何回も、重なった。


これ、待つ身には、かなわんでえ。 先生、ドアに下げる看板、作りましょうよ。

おもてなら、本日、英語教室あり。 裏なら、休講です。 それは良い!
てんで、女の子二人。 協力して、上手く作ったのだ。


次の週。 ドアの看板。 英語教室、本日有ります。 既に、三名の学生、大
学院生。 椅子に座って、待っていた。 だけど、我らの前の、大きなテーブル。

書類が、三十センチの厚さに、びっしりと積んである。 この書類、何だろう?
これだけで、巨木。 一本分の、紙だな。 なんて、ふざけてた。


待つこと、一時間。 先生、遅いわねえ。 本日、有りなんだから。 早く来
て欲しいな。

と、言うところへ、先生だ。 待ってる我らを、見るや否や。 先生は、顔色
を変えて、猛烈に、怒り出された。


君たちは、思い遣りが、無いぞ! テーブルの上の、書類を見れば。 今日の
英語教室。 無い事くらい。 すぐに、判るだろ!

情けない学生たちだ! 本当に、本当に、情けない学生たちだ! と、心底、
激怒された様子。 我等は白らけたね。


 *      *      *


ちょっと先生! ドアの看板。 本日あり! ですよ。 これじゃあ、何の為
に、看板を、作ったんですか?

先生が、ちょっと裏返しにしとけば、何の事も、なかったのに。 看板が、
本日ありでも。 テーブルの書類を見て、気を利かせろ! じゃああ。 我ら

は一体。 どっちを信じたら、良いんですか?


書類の山を見て、気を利かせて、帰ったら。 何だ、君たちは? ドアの看板
は、有りだぞ! 何を、見てんだ!

と、怒鳴る事。 可能ですぜ。 でも我ら。 先生の剣幕に、逆らわず。 文
句も言わず。 大人しく退散した。 廊下へ出て学生。 ワシに言った。



久治良さん、今の、どう思います? 君らこそ、どう思う? ボクはね、あの
先生。 お母さんに、物凄く大事に育てられた人、に、見えるんです。

おかあさんと、異体同心。 ツーカーで、意思が通じた。 その気分、まだ
続いてんじゃ、ないんですか?


その上、あの先生。 成績が、抜群に良かったから。 いよいよ、お母さんっ
子に、なったんですよ。

それを、五十歳になった、今もなお。 続けて、居られるんで、我ら、大迷惑
って、とこかな? ワシ、ふむふむと言うて、同感、しといた。


たしかにね。

先生と話してると。 お母さんっ子、だった、雰囲気。 濃厚に、漂って来る
んよ。 ノーベル賞を、狙う前に、そこを、何とか、しないとね。


 *      *      *


だけど、この先生の授業。 評判が、すこぶるに良い。 学識の豊富さ。
エリアの広さ。

この大学で、有数の先生。 と、言える。 だけど親しく、お付き合いさせて、
いただくと、色んな甘さが、浮き出てくる。


それ位、まあ、大目に、見ようじゃないの。 あれだけ、沢山の、大学院生。
この先生の援助で、博士号を取ったんだもの。

それ位は、許容しないで、どうすんの! やがて、この先生、教授ですよ。
今の教授より、学識が有るんで。 用心しないと、出され、ちゃうかもよ!


 *       *      *


ワシ、講座の人事。 大嫌いです。 山崎豊子の、白い巨塔なんて、軽い軽い
です。

本物の大学の人事は、えげつのうて、ワシ、胸糞が悪く成る! 誰か、小説
の書ける人。 居(お)らんかの? ネタ、ワシが出すから、書いてくれ!


教授の椅子を巡る(めぐる)。 あの戦いを、実録で書けば。 おえっ! と
なるかもよ。 お皿に、糞便が載ったような、もんじゃよ。

椅子を勝ち取り。 教授に成った後の、競争相手の、追い出し人事も。 かな
わんなああ! あれ見てると、何が大学だ! 何がアカデミーだ! と、

ぼやきたくなる。


< ああ、嶋田淳教授の、最終講義。 >


大学が、終わる。 押し出されて、卒業させられて、シャバ(娑婆)に出な、
あかん。

各講座の講義。 次々と、お仕舞いになる中で。 最終講義は、うれしいよう
な。 悲しいような。 複雑な心境ですよ。 おっかさん!


その最終講義。 最終講義中の、最終講義。 おおとりを、打っていただくの
は。 我が歯学部の、美空ひばり。

はっ、はっ、花の口腔外科第一。 愛称ジュンちゃん事。 嶋田淳教授、ざま
す。 奥さん、誰か、ご存知ですか? 本学出身の、歯科医師だっせ。


と、言うより。 今や、霞ヶ関。 国会議事堂なる、ケチな建物に。 その筋
のバッジ。 きらきらしく付けて、出入り、なされて、おられる方。 なんす
よ。

民主党の、組員です。 埼玉県の選出なんで。 県内の方。 写真、見てるよ
ね? 写真、(当然) かなり、かなり、物凄く! 修正されてます!

だそうですが。


ま、そこは、大目に見ましょう。 あれでも若い頃は、ゴツイ美人! だった
そうですが。 この際、奥さんは横に置きまして。

だんなの、最終講義です。


 *      *      *


君ら、見たと思うけど、ウチの大学。 矯正外科の患者の顎(あご)。 日常
的に、切ってますけど。 あれの最初。 どんなだったかを、

是非是非。 知って欲しいな。 昔は、あんな顎切り。 無かったんだよ。


あの技法が、日本に初めて、導入された頃の話。 しようかな? と思うんだ。

オブウイゲーザーの、矢状(しじょう)分割術だ。 ボクなんか、オブウイっ
て、聞いただけで、今も、胸、キュンに、なるんよ。


オブウイゲーザーって、もちろん、人の名前だ。 彼が、この術式を始めて、
最初の論文を、発表して。

それこそ直に(すぐに)だよ。 研究室の親分(故山本先生)。 その机の上
にだ。 一目で、それと、すぐ判る。 下あごの所、論文どうりに、切ってあ

る、頭蓋骨。 ボク、見ました。 あの時の、胸騒ぎ。絶対に、忘れません!


ボクも、論文は、見ましたが。 親分の早いのには、ホント、魂消ました。
ボクも、負けては、居れません。

すぐに、骨を買って来て。 論文見ながら、こっそり隠れて、練習ですよ。
ゾクゾクしながら。 でしたよ。


親分。 ボクの気配。 感じてる筈なのに。 何も、言わない。 あれ、
妙に圧迫、感じましたね。

ボクも、意地になって、何も言わないから。 お互い、知らない振りして、
必死に練習です。 無言の、つばぜり合い、でしたね。


メシなんか、一緒に喰いながら。 それと無く、術式の問題なんか。 議
論、してんだか? 探り? 入れてんだか?

知らない人が聞けば、ちんぷんかんぷん。 だったと、思いますよ。 で
も、親分とボクには、あれ。 物凄い、情報の交換! だったですね。


あの頃は、真夜中まで。 時間を、忘れての、練習でした。 新しい術式
はね。 絶対に、教科書通りには、行かない! と、神様が、決められて
ます。

予期せぬ、アクシデント。 全部予知するの。 無理ですけど。 経験、
積むとね、


九十%までは、攻める事。 可能に、成るのです。 これはね。 君らが、
これから、行く道だよ。

そんな、ある日です。 親分、ボクの顔見て、無言で。 オペの予定表に、
顎切り! って、書かれたんだよ!


 *      *      *


その文字を見て、だ。 ボク、泣いちゃったよ。 来るべき日が、遂に来た
んだ! 今日がその日なんだ! そんな感じ、だったね。

親分、ボクをキッと見て。 来週、オブウイゲーザーで行く! きっぱりし
た。 いい声、だったなああ。 耳の奥から、今も、聞こえて来る!


あの時の、武者震い。 昨日の様に、思い出す。 青春の血が、沸き立った
ものだよ! いよいよ本番が、来た! 本番が、来た! 叫びたい、気持ち!

君らも是非、あんな、感動の瞬間! 体験してよ。 なみだ、が、ボロボロ
だったんだよ!


その日から、もう、秘密、なんかじゃ無い! 親分と二人。 窓が、白むま
で。 手術の、手順。 何回も、何回も。 演習した。

最初の手術は、怖いですよ。 メス持つ親分の手。 明らかに、緊張されて
ました。


あの手術。 最初、だったのに。 すべてが、順調に、終了しました。 最初
が、スムースだと。 二回目が、怖いのね。

君らも調子、良いからって。 油断、すんなよ! なめて掛かるとね。 大怪
我するから。



ボクら、で、言えば。 患者が、死ぬ。


 *      *      *


今じゃあ、この手術。 毎週毎週の、ルーティンな手術に、成ってしまった。

だけど、一回一回。 心を新たに。 取り組んでますからねっ! ウチの大学。

顎切りの失敗。 無し! ですからね。



無事故の新記録。 絶対に、更新します!



毎回毎回。 心を引き締めて、取り組んでます。 手術と言うものは、ね。

新鮮な感動を、必ず、術者の胸に、起こすもの! なんです。 毎回、新しい
発見が、有ります。


そうだ! 君らの中の、一人でも二人でも良い。 口腔外科の道を、歩み。
ボクらの仲間に、なってくれないか?

歯科医師には、色んな可能性。 有るけれど。 口腔外科の道もまた、汲めど
も、尽きぬ。 奥の深さ。 あるんだよ。


 *      *      *


ボクの講義。 いよいよ、これが、最後だなあ。

長い間。 ご静聴。 ありがとう! 本当に、ありがとう! ありがとう!

じゃあ、さよならだ! さよならっ! さよならっ!


その時だった。 学生は、期せずして立ち上がり、万来の拍手で、教授の最終
講義を、見送った。

あの瞬間は、良かったなあ。 万感、胸に迫るって感じ、だったよ。

書いてて、涙が、止まらんものねえ。


 *      *      *


さよなら、さよなら。 二十九期! ありがとう、ありがとう! 明海大歯学
部。 講義と実習の先生方。 お世話に成りました。

臨床の先生方は、戦い方。 教えてくれた。 明海大の、総ての先生と、スタ
ッフの皆さんに。 お礼の言葉を、千回送りたい。


有り難う、御座いました! ホントに、ホントに、有難う、御座いましたっ!


 *      *      *


ワシの、老いたる胸にも。 熱いものが、こみ上げて来る。 なつかしい大学。
なつかしい諸君。 胸、キュン、の、日々だったな。

卒業は、まるで。 押し出される、みたい、だった。 残りたいのに、残して
くれない。 そんな感じ、だった。


勉強に、読書に、アルバイトに。 旅行に、山登りに、そして、スキーの歓び
に。 腕を、天に突き上げ。 雄たけびを、叫んだ。 大学時代!

ニセコの、志賀高原の、湯沢の、妙高の、あの瞬間を。 どうして、忘れよう
か? ビールを酌み交わした、民宿の夜。

あの痛快さ! 愉快さ! は、大学時代に、しか。 有り得ない!


 *      *      *


若い君らは、卒後に、人生が有る。 ワシは、大学時代こそが、人生だった。

そして、悔いの残らぬ、青春を。 遅ればせながら、完璧に、やり遂げたぞ!


明海大学、歯学部の六年間。 ワシは、最善を尽くしたと、断言、出来る!


 *       *      *


では、諸君。 ひとまずここで、筆を、置くとしよう。

書き残しは、裏本にて、再開(再会)じゃ。 そうだ、こんな事は、あとがき
で、書くんだったな。


 *      *      *


明海大歯学部、二十九期。 一人一人の胸の中に、それぞれの、六年間の思い
出が、詰まっておる。

静かに、腕を磨いていた、学生。 本には、書き難い。


思い出を、書いてると。 とかく、いけない話題。 ばっかしに、成るんよね。

諸君は、この点を勘案して、読んでくれ。 おっと、これは、後書き(あとが
き)の、原稿やないか?


 *      *      *


明海大歯学部には、守衛さんが、日夜、常駐する。 警察官上がりの方、自衛

隊上がりの方は、あの日航機。 御巣鷹山、激突の現場。 小隊を率いて、第

一番に、到達された方。 なんだよ!


墜落の現場。 真っ先に、目撃した瞬間。  思わず、両の手は、合わさり。

頭(こうべ)は、垂れ。 自然と拝(おが)む形に成ったそうな。

どんな人にも、その人だけの、歴史が有るんだよ!

この本もまた、或る人物の歴史の、ひとつだぜ!


 *      *      *


お名残り惜しいが、お仕舞いが来た。 そのうち、あの世からの、お仕舞い

の通知。 なんかも、ワシの郵便受けに来るでしょうよ!

なんでも、始めた事には、お仕舞いが、付いて廻るんじゃよ!



では、では皆さん! ご機嫌、よろしゅうに!

また、お会いしましょうぞ!




*       *       *



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