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第 四 章  3 / 4 

< 問題じじい、本領を発揮す >




< 抜去歯とは、抜き去った歯で、あある >


歯学部の学生、実習に抜去歯を使う。 将来は、患者さんの、本物の歯を削
る。 その、前もっての、練習だ。


お父さん歯医者なら、ビン一杯の歯、送って来る。 大きい声では言えない
が、行きつけの歯医者、子供が歯学部に居たら、用心した方が良い。

彼等の使う歯、恐ろしく、きれいな歯。 なんで抜いたんだ? 言いたくな
る、ような歯。 無きにしも非ず、だ。 ひょっとして、


子供の実習の為に、抜きました。 患者さんには、ご協力、お願いしてます。


てな冗談、真実味を帯びる程、問題の無い歯がある。 それから抜去歯の
郵送、法律違反である。 抜去歯と言えども、人体の一部、郵便では遅れ
ない。 でもみんな、送ってた。


親が歯科医師、以外の子。 仲間に貰うか、近所の歯科医師に貰うか、どっ
ちかだ。 ワシなんぞ、行き当たりばったり、歯科医院の看板を見て、飛び
込んだ、もんだ。


歯を、いただきたい! 無慮十余軒、断られたこと無し。 感謝感激。


 *     *     *


そう言えば、歯科医院の外観、色々有ったな。 人間の顔に、人相、骨相が
ある様に。 歯科医院の外観にも、相が有る。 建物を観れば、先生の生き
方が判る。

玄関を入りて受付。 受付の方、出来た人が多い。 受付、歯科医院の顔。
大切な顔。 押しなべて、人当たりが良い。 流石と言える。


十数軒廻った理由、言わずと知れる、偵察行為。 ある歯科医院、待合室、
ブルーのライト、 やや暗め、落ち着きの気分。 BGMがシャレていた。

椅子の趣味、悪くない。 壁のポスター、吟味してある。


呼ばれた患者、トンネルみたい通路、突き当たりのドア、押して入ると、別
世界。 おお! 明るく清潔な診療室。 工夫しとるなあ。 感心した。

この正反対の医院、建物プレハブ、駐車場、穴ぼこ水浸し。 経費掛けない
主義。 診療室、昔のチェアー。 徹底しとる。


受付のぞいて、歯を下さい。 インスタントコーヒーの大瓶に一杯、呉れた。
アパートの裏で選別。 使えた歯、たったの十本。 あとは使えない、酷い

歯。 これ良心的な歯医者のあかし。 大学で、親が歯科医師の子の歯を見る
と、何でこんな歯、抜いたんだ! と言うのが、多かったぞ。


とに角、抜去歯を下さった、開業歯科医の先生方に、お礼、申し上げる。



< 明海大歯学部、学生食堂一件 >


温かい昼飯、満腹、たったの三百円。 ワシ最初、感激だった。 若い学生
たちのお喋り、聞きながら三百円で満腹だ。

幸せって、これかな? そんな感じ。 教授の中には学食を馬鹿にして、あ
んな不味い物、よく喰えますな。 などと、


講義で言われる先生、まま居られたが、ワシは、昼に成るのが待ち遠しくて、
真っ先に学食、温かい定食。 湯気の立つオカズに、幸せ、感じてた、のに

だ。 ワシの気持ち、ある日、打ち砕かれた。


いつもの様に定食、ある先生の前、テーブルに座ったのだ。 な、なんじゃ
これ? ワシのおかず、先生のおかず、分量が五倍違う。 ワシのオジャガ

一個、にんじん一個、シラタキひとつまみ、たまねぎ少々、お肉チョット、
油揚げ痕跡、あとはお砂糖たっぷりの、甘い汁だ。


一方先生のお皿。 オジャガ、にんじん、たまねぎ、お肉、山盛りだ。
並べて見るまでも無い。

同じ三百円だぞ! この差別、一体なんじゃ? 先生苦笑されて、確かに酷
いな、学食に文句言わないと、いかんな。


この日を境に学生食堂、苦痛に成った。 見ると男子学生、押しなべて盛が
悪い。 女子学生、ブスは先生並み、盛が良い。 美人の盛、あらかさまに

悪い。 ワシらの入学時、五年に伝説の美人が居た。 見ると学食、必ずう
どんだった。


うどんなら盛の手加減は無い。 学食、温かい物を出したいから、アルバイ
トのおばさん、注文でオカズを盛る。 するとおばさんの気持ちが、オカズ

の盛に反映する。 先生山盛り、男の子チョッピリ、美人もチョッピリ、ブ
ス先生並み、山盛りだあ!


この事実を確認したワシ、学食のオバンを、怒鳴りつけてやろうか? 思っ
たが止めた。 それでなくても、文句ばかり言うオジンで名を売っておるの
だ。

ここは泣き寝入り、しか無かった。



学食には十人近いアルバイトのオバンと、経営者のオヤジ、その娘が居た。
見てるとオカズの盛、極端に差をつけるオバン、三人だ。

いずれも骨相。 いじわる。 さらには女として、満足出来なかった気配、
濃厚に漂(ただよ)って、おる!


女の満足。 無しに年を取ると、おんな、底意地を、悪くせざるを得ん。
左も無くんば(そうで無ければ)、気持ち、治まらんのだ。

世の旦那さん。 嫁さんを、女として納得させないと、人生の後半、仕返しさ
れるのみならず、おんな、世の中に対しても、イヤミをしたがる、のですぞ。


 *     *     *


< 学食、おかずの盛りの違いは、一大事だ >


聞いてみると先生の中には、この事実、認知しとるのが居た。 だけど彼等
自分は勝者だから、確かにいけませんなあ、アハハッ。 位で、お仕舞い。

だからワシ、学食へ行っても、オカズの係り、女の満足、失敗の三人組なら、
定食は諦めて、どんぶり、にした。


これなら盛の多い少ないは、無い。 おかずの係りがオヤジだと、最高だ。
誰彼なく、盛が良い。 娘も差別はせんが、オヤジに比べると盛が悪い。

女だからね。 仕方ない。



こんな風に相手を見て、さじ加減を変える行為。 医療倫理の、憎き(にく
き)敵のはず。 歯科医師が患者を値踏みして、手抜きしたりすれば、こり

ゃ医療倫理、違反ですよ。


学食、同じ三百円なのに、相手によって盛を変える。 けしからん行為だと
思うんだが、ある先生、ワシに、そんな事、言わない方が身の安全ですよ。

釘を刺した。 この釘(くぎ)、正しい釘と言えるか?
諸君、どう思う?  たとえばだ。 こんなのは、どうだ?


 *     *     *


臨床実習。 ある先生に、二ヶ月間ついて、患者、すべてご婦人のみ。
女の患者しか治療しない(触らない)先生。 結構居た。

ある先生、口腔審査と称して、患者(おんな、だっせ)の口の中に指入れて
筋肉に触れる。


押して痛み、有りますか? 学生うしろで、審査用紙に、丸やバツを付ける。
患者男だと、この審査、絶対にせん。

だいたい、あの審査、なんの意味が有るんじゃい? この先生、その後、
大学を去られた。


女の患者しか診ない先生と、相手により、おかずの盛りを変える、おばんと
その差、どれだけ有るか?


ところで今のワシ、仕事。 年配のじじ、ばば、しか配当されぬ。 若い女
の子、こっちでお断り。

年頃の女の子、匂い立つよな、初々しさ(ういういしさ)、有るのね。


ワシ、あれ、敵(かな)わん。 若い先生、ムラムラしても、無理、無いわ。

だから、若い女の子。 歯を大切に!  歯科医師の前で、横に成らなくて
済む、口腔、のみならず、全身の健康生活。 せな、あかんよ!


 *     *     *


学食の差別、診療の差別、人間の差別、老若の差別、男女の差別。 これに
抵抗するのが、医療倫理の筈。


なのに、大学は倫理。 機能してなかったぞ。 ワシ、その後、学食は止め
て、自家製の弁当にした。 これなら差別に、直面せずに済む。


弁当にして、新発見。 学生たち、大学前のコンビニ、または弁当屋。
買ってきて車座。 天気の良い日は芝生へ出て、楽しそうに喰っておる。

遠足行った気分だな。 ハハハッ!


中にゃあスゴイのが居た。 彼女に弁当、作らせる。 それが重箱だ。
三段重ね、だぜ!

彼を名付けて、重箱君。 あんな昼飯じゃあ、一杯、飲みたくなるね。
毎日が、お花見気分。  本当に、アハハハッ!  だったよ!



< 歯科学会の研究発表は、 新米先生の練習の場か? >


ライセンス取って一ヶ月、オジンのワシでさえ、湯気の立つ、新卒真っ最中。

保存系の学会に出ろの指令。 坂戸.東京間の旅費二日分、大学が呉れたんで
行かずんば、なるまい。


最初の日、意気込んで行ったが、なんじゃあれ、新米先生の発表練習会か?
論文、中味より、数が物言う世界なんで、一言で言える研究、十回に分けて

発表する。 その一切れの研究、明らかに、未熟丸出しの若い先生、ステー
ジで原稿、棒読み。 そこしか知らぬ。 あほの極致。


司会の教授、質問は有りませんか? 手上げるの、失礼な奴だ。 こいつら、
東京医科歯科大、歯学部の先生と、相場が決まっとる。

こいつら、特に、揚げ足、取ってる訳でも無い。
要するに、関連の専門知識、発表者に備わっとらん。 だけの話だ。


研究は細切れ、発表者、そこしか知らん。 新米の場数踏ませだ。 聞かれ
ても、判りません。 中には質問者に、腹立てるのも、居たりして。

研究の、おままごと。 (ここは文句、来るやろな。 だけど、本当だぜ)


ワシだって、大きい事は言えん。 研究の素養、有るじゃ無し。 かと言う
て、アホに付き合うのも、つまらん。

一日目、それでも我慢したが、二日目、拷問だった。


かと言うて、大学から旅費、貰っとるから、抜けるのもまずいんで、ワシ、
ホールの後ろ、居眠りしてた。 ハッと目覚めると広い会場。 誰も居らん。

みんな昼飯だ。 あわてて外に出た。


飯田橋、シテーホール。 外に出れば食い物屋、いやほど有る。
ミートスパゲテーで腹を満たし、コーヒー、片手に、物思いに耽った。

日野原重明先生だ。 日本、こんなに優秀な人材、医学部に集めて、ノーベ
ル賞、さっぱり取れん。


ワシ、本日の歯科保存学会を見て、これじゃあ取れんわ、戦略、一個も有り
ゃせん。 ため息ものだった。 そもそも、つまらん。


あれ、日本的学問の典型。 日本的学問、日本の中だけに、通用する。
仲間の中、だけで、満足しとる学問。


医学部の卒業生。 卒後、大学に残り、博士号を取るための研究。 あれも
つまらんなあ。 日野原先生じゃ無いが、日本の優秀な頭脳。

浪費じゃ無いか? あの、膨大な労力と時間。 ノーベル賞級の研究。
一個も無いやないか! どこが間違っとるんか? さっぱり、改善されんが。



次は、最近読んだ本、ドキッとしたんで、紹介する。


< 教育しない教育。 そう言う教育が、有るんだ! >


佐藤優(まさる)氏の本 * 自壊する帝国 * を読んで、ハッとした。
旧ソ連では、諸外国の外交官の語学力、向上させない為の戦略が有った。


ネイティブの先生、なるべく話さない。 学生同士の討論が、もっぱら
の授業。  これだと、有意義そうに見えて、語学力、付かない。

んだ、そうだ! つまりだ。 ロシア語が下手。 (旧)ソ連の事情が、
分からん。 経済の真実、外に漏れない。 うそのプロパガンダ(宣伝)

信用される。 日本の学者。 本気で騙(だま)されて居た。


なるほど、ね。 そんな戦略が有ったのか?


ワシらの一年次。 英国人による英会話の授業。 正に、これなんだ。
英国人の先生、なるべく話さない。 教科書の読み、もっぱらテープ。

あと、学生同士で英語の会話。 当然、我ら、日本語英語。 これじゃあ
絶対に、上達しない。


佐藤氏は外務省で、ソ連だ。 語学の勉強の為、現地の大学へ。 同じよ
うな授業。 先生、なるべく話さない。 学生同士での討論が、主体。


ワシ、ウウムと唸ったね。 あの英国人が、日本人の英会話能力、向上させ
ない戦略だったとは、思いたくないが、彼の授業、正に、佐藤氏が旧ソ連で

体験した授業と同じだった。 意図せぬ意図であるか?


 *     *     *


どんな学科でも、学生の対話中心の授業、犯罪行為だ。
教育とは、教え育てるもの。 より高いもの、より深いもの、より難解なも

のを学生に教えてこそ、教育なんよ。


学生同士の議論、どこまで行っても学生のレベル。 厳しい講義の合間、理
解を確認の意味での議論なら、まだしも、学生同士の討論中心は、教育の放

棄ざんす。 教えておらんのだ!  学生、育たない。 教育じゃない!


明海大歯学部、教養課程にこの手が、多い。 ある先生を捕まえて、文句言っ
たこと、有った。 先生反論して、講義しても学生、聞かないじゃない。

馬鹿馬鹿しくて、やってられないのよ。 学生同士でお喋りさせとけば、少
なくとも、間(ま)がもてるでしょ。


 *     *     *


ワシ、反論できなかった。 1900年頃のアメリカ、小学校出てれば歯科
医師に成れた。 あんましだ、てんで、その後大卒になったが、歯科医師を

自分でしてみると、授業なんか聞かず、おしゃべりしてた学生の方が、成功
の確率高いと、ワシは体験的に思う。


ライセンス、取るだけの学問。 ライセンスさえ取れれば、後の学問。 要
(い)らんのよ。 先生、講義してても、我ら学生、寝てりゃ良いのよ。

実際、その戦略で歯科医師に成った同級生、少なく無いぜ。


それで済む最大の理由。 歯科医師を、してみると、良く判る。 我らのレ
ベルでの仕事。 ありゃあ、細工師の仕事だ。 大学、行かなくても、細工

師に成れる。 さらには歯科医師、人気商売の側面がある。 大学時代の
悪(わる)、開業して大成功なんて話。 よく耳にする。


こうなりゃ、学生時代。 ライセンス、取れるレベルで勉強して、あとは仲
間と、ワイワイしてた方が、賢い。 これ嘘じゃ無い。

明海大歯学部の授業が、何者であれ。 卒後の成功と、あまり、関係が無い
と言えば、言えるんよ。



道理でライセンス、最小の労力でクリアー、させて呉れる先生。 学生の点
数、高くなる訳(わけ)よ。


 *     *     *


佐藤優の本 * 自壊する帝国(旧ソ連邦の最後、佐藤氏の見たまま)を
読みて、教育しない教育が、国家戦略の中に有ると知り、日本の甘さを痛感
した。


日本なんて、アメリカや中国の留学生に、教えなくて良いノウハウまで、教
えちゃうからね。 それを知った留学生が、先生の研究を、自分の特許で申

請した例を、都知事の石原慎太郎が書いている。 世界の常識、ホントの所
は、教えない。 教えた方が、悪いのだ。


大前研一氏が書いたように、日本人がハーバードのMBAコースへ行っても、
一時代前の教育で、資格を与えられる! 今、現に必要な教育は、

自国のエリートに、のみ、与える。 海外留学生には、古いのを、与える。
世界は、嘘と騙しの、戦略世界なんだぞ!


明海大歯学部にはアメリカから、中国から、研究者が来ておる。 あいつ等、
日本の論文、きっちり読んどるのだ。

面白い研究が有ると、必ず人を派遣して来る。 様子、見に来るんだ。 それ
を迎え撃つ日本、戦略なんて、全く無し。


よく来られました。 文字どうり、大歓迎。 日本人にさえ教えない研究、
みんな教えちゃう。 気が良いんですよ。 わいらは。


 *     *     *


この教える、だが、ワシの父、久治良伊一の鉄工所から、十指に余る優秀な
旋盤工が、育って行った。

久治良鉄工は旋盤大学だなんて、悪口言われながら、父は嬉々として、教え
ていた。 かく申すワシも、弟子の一人。

だから教えるについては、一家言、有る。 その前に、山本先生だ。



明海大歯学部、歯科医師の国家試験。 これまで、余りにも簡単だったので、
学課ゆるゆるだった。 何をしてても、進級出来た。

故山本歯学部長、ネジを巻き直すと、教授会から、かなりの反発。



山本先生、逆風、物ともせず進まれたが、心労であろうか、胃潰瘍から胃ガ
ン。 死期を早められた。 しかしその改革、大学の有り方を変えた。


先生が早死にされたんで、座学はともかく、実習の現状、そのままだが、
ウチの歯学部の実習、言ってみれば、通り一遍。 あらゆる場面を一通り
体験する。

それも必要だけど、どんな世界でも、一通り実習したら全て判るほど、甘く
は無い。 卒業生、現場で役に立たない。 当たり前、なんよ。


役に立つカリキュラム、して無いんだもの。 ワシ、自分で体験して見て、
よく分かった。

実習の教え方、改善の余地が有る。 番外(裏本)にて、書く。


 *     *     *


それと、先輩の先生に聞くと、昔は実習(基礎課程の顕微鏡実習まで)、夜
九時、十時なんてザラだったが、今は四時半になると、帰ってくれ。

実習室から、出て行ってくれ。 学生より先生の感覚が、変わったなあと、
感慨しきり、だった。


基礎系は、自分の研究がしたい。 早く帰ってくれ! 臨床系では、夜の遅
いの、やだよ。 そんな遅くまで学生の相手、したく無い!


時代ですな。 国家にも栄える期(とき)と、衰微する期がある。  生住
壊空(じょうじゅうえくう)、生まれ、栄え、喜びもつかの間、衰えが始ま

る。 あの栄えも、夢の如く、空に帰す。



生命の大海を、ある時は浮かび、ある時は沈み。 再び現れては、生死生死
と、過ぎ行く我等。 個人も生死。 国家も生死。 時代も生死。

と見れば、我等の振る舞い。 何と無く、頂点を越した国の、衰微の坂、降
り行く気分、感じる。 んだなあ。


四時半ぴったしに、消灯する実習室。 あの風景からは、興隆する時代の熱
気。 感じられん! わ、なあ。



< 若い先生、ご機嫌、およろしゅう御座んす! ですが、ね >


若いと言っても四十台、授業が終了した、その後だ。 女の子に囲まれて、
ワーワーキャーキャー、気分良いでしょう。 あの年で二十代前半の女の子

と、お喋り出来るんだ。 楽しいですよ。


でもこれ、意外と評判悪い。 先生は変われども、囲む女の子、いつも同じ。
その他の女の子、白い目で、これを見る。

先生、調子に乗っては、いかん。 気を付けた方が良いぞ。


でも、あらゆる先生。 女の子に囲まれて、楽しいお時間。 この中でただ
一人、男の子の、それも悪(ワル)に囲まれてお喋りしたのは、解剖学、故

時岡教授のみでした。


後は全部、女の子に囲まれて、ワーワーキャーキャー。 うっせえぞ!
跳ね上がり教師め!

オレ、焼いてんの、かな?



< 手が震える >


緊張して手が震える。 これは正常。

臨床実習、初めての患者さん。 若い学生は勿論、年寄りのワシも、緊張で
手が震えた。 問題は異常な震え、何でも無い時、手が震える。


二年次の解剖実習だった。 時岡先生の所へ、やり方を聞きに来る学生、見
てるとピンセット、震えておる。 ある学生、ワナワナと震えてた。

ワシ、手の震える子、五名まで数えた。 何と無く背筋、冷たくなった。


大丈夫かしら? 学生の将来、考えてしまう。 しかし当の学生、一向に平
気。 卒業するや、それぞれの針路を、進んで行った。


 *     *     *


この原因である。 五人の学生、共通して体格、非常によろしい。 頭部、
おしなべて、でかい。 ワシの推測だが、出産時、頭部の大きい子、産道の

滞留時間。 どうしても長く成る。 まして無痛分娩だ。 無痛分娩の長
所。 痛くない!  だけど、マイナス面も、有るんだぜ。


新生児の頭部、この間に損傷され、手の震えと成る。 ワシ、大学の医系の
先生に、聞いたのよ。 山本歯学部長にも聞いた。

皆さん、よく判らん。  ご存知の方、教えて下さい。



両手にお箸をつまみ、腕を伸ばして向き合わせる。 お箸の先、一ミリの間
隔にして、停止する。

この時、手の震える子、お箸の先、ワナワナと震えて静止しない。


ワシ、手の震える学生と、相互実習したこと、ある。 彼、ミラーをワシの
口の中。 でも予想したような事は無く、他の学生と同じだった。

手の振るえ、感じなかった。 心配無用、なんかも知れん。



何の実習だったか忘れたが、 学生と話していると彼の親、開業医だった。
兄さん医学部。 すると君、医崩れか?  お兄さんの、専攻は?


ウチの兄貴、手が震えるんで眼科駄目なんです。 親が眼科医だから、本当
は眼科なんですが。 仕方無いんで、手が震えても構わない、精神科へ行き
ました。

そうか、君のお兄さん、手が震えるんか!


ワシ、何と無くしんみりして、しばらく黙っておった。



< 質問。 君らの質問は、汚い >


授業の最後だ。 先生、質問は無いか? 聞かれる。 講義室、シンとして
おる。 無けりゃお仕舞い。 先生、帰ろうとする。 するとだ、学生数人

ワッと駆け寄り、質問、質問、質問だ。 順番付いて質問だ。


何じゃい、その態度?  ワシ、彼等に言った事ある。 君ら、アンフェア
ーだ。 質問は無いか? と言う時、黙っていて、先生が帰ろうとすると、

質問だ。 なんで皆の前で聞かんのじゃ?


君らの質問、ワシらも聞きたい。 君らのはこそっと、ネコババしとる質問
だ。  すると学生、皆の前でする程の質問では、無いですから。

口が上手いな。


ワシが先生なら、質問は? の時黙っておって、後から来るのには、答えん
な。 または質問だけ受けて、答えは全員に向かってする。

プライベートの質問なら、とに角。 学生の質問、結構面白いのだ。


最近の学生、とかくコソッと質問する。 ワシ、あの感覚が気に入らん。
質問は授業の中で、フェアーにやれ。 先生もコソッとの質問には、答える
な!


< 実験動物、慰霊祭 >


四年次の十月だ。 秋晴れのすがすがしい日だった。 慰霊碑の前に祭壇が
設けられ、読経の流れる中、職員と学生、焼香をした。 学生、男の子八十

名、女の子四十名だ。 ワシ、後列に立って、驚いた。


大部分、茶髪なんだ。 黒髪少ない。 ワシらの昔、女の子の髪が茶色いと
、両親、心配で堪らんかった。 ところが今、折角の黒髪を、茶色に染めて
しまう。


君ら、茶色の髪の毛、相学の本では淫乱と言うの、知ってるか? 下半身の
乱れの出る人。 言うんじゃよ。 君らも、乱れるんか?


何にしても、茶髪の多さに驚いた、実験動物、慰霊祭だった。



< 石頭 >


我が二十九期、六年間、夏が来るたびワシ、困り果てた。 クーラーだ。

若い学生、外でサッカーなどして帰る。 講義室、暑くて堪らんから、ク
ーラー、最強にして、授業始まる。 初めはよろしい。 三十分するとク

ーラー、強すぎる。


冷気の吹き出し口の学生、最強の風、全身に当る。 堪りかねた学生一人、
不意に立って先生の前を歩き、黒板横、スイッチを切りに行く。

クーラー停止。 しばらくは良い。 やがて外の熱気。 講義室、ムッと
成る。


最初、冷房キョンキョン。 次いでムッとなる講義室。 ワシ、学生に言
ったのよ。 君ら極端から極端だ。

クーラー、消すんじゃ無しに、気持ち良いレベルに、調節したらどうか?


授業の最中、先生に断り(ことわり)も無く、すっと立って、スイッチ消し
に行く女の子たち、いつも決まっておる。 面白いのは彼女たちの体形だ。

横から見ると、確かに女の子だけど、真後ろ(まうしろ)から、見ると、彼
女たち、男の子みたいな女の子。 体形は、気質を形成する。


ふくよかな体形の女の子で、スイッチ、消しに立つ子。 見たこと無い。

ある時、彼女の一人に、ワシ、言ったのだ。 クーラーを、まるきり消すん
じゃなくて、レベルを下げてはどうか? と。


彼女、憎憎しげに、邪険な返事。 提案、一切聞かない。 おかげで六年間、
最初クーラー、キョンキョン。 次いで消されて、ムッとする講義室。

ついに変わらなかった。 だけどね諸君、クーラーなら、まだ良いわ。



問題は卒後、臨床の実際だ。 大学はひとまず置く。 一般の開業医だ。
新卒ならとに角、三年以上の先生だ。  良い治療する先生が、居られる

一方で、先生、そこ、そんな治し方、しちゃいかん。 マズイですよ!


  言いたくなる先生も居られる。 しかし絶対、言ってはいかん。 人間関係
壊れる。 だいたい、言っても聞かないよ。 かく言うワシも、言われると

ムカッとする。 だけど、これ、何んとか、しないと駄目だ。 クーラーな
ら我慢出来るが、歯科の治療だぜ。 患者、敵(かな)わんよ!


 *     *     *


新卒の先生を指導する先生。 責任重い。 変なクセ、付けてはいけない。
最初の内に、正さないと、死ぬまで、これだから。

新卒の歯科医師。 チョット上手くなると、たいてい、天狗に成るからね。
天狗に成ったが最後だ。 聞く耳、消滅する。


新卒の先生で多いのは、形成が出来る様になると、もう、天下取ったような
気に成る。 そんな先生、結構多い。

あらゆる仕事と同様、歯科医師の仕事も、底(そこ)深いからね。


三年程で独立した先生(分院長や開業歯科医)押しなべて有床系(入れ歯)
が、弱い。 タンス義歯、量産だ。 この問題、歯科医師、全体の問題で
ある。


クーラーを最適に出来ず、極端から極端。 ギョンギョンか、止めてしま
うか。 遂に改善されなかった、二十九期。 そこから考えて欲しい。

我ら、六年間。 極端なクーラー操作で、終始した。


 *     *     *


歯科医師にも身分の上下、厳然と有る。 先輩、後輩は勿論。 有名な先生
と、無名の先生との上下、これまた強い。

さらには勤務歯科医師、五人使ってる先生は、二人より偉い! まして一人
で治療の先生、肩身は狭い。


分院を八個持ってる先生、持って無い先生を、二階から見下ろす感じ。
てな具合に、仲良くしてるようで、結構歯科医の世界も、人間界なんじゃ。

これを無視すると、後々良くない。


 *     *     *


鉄工所時代、こんな経験をした。 ワシ十九歳だ。 四十年前だ。 石川県
小松市の鉄工協会、総勢二百人、京都の久世(くぜ)ベローズなる会社へ、

見学に行ったのだ。



中央演壇を、コの字に囲む長い机と椅子、二百人分だぜ。 お座り下さいの
声。 二百人の社長連中、ドーッと進んで、指定席みたい、ピタッと座った。

ワシ、感心したよ。 一発、何のトラブルも無しに、二百人が座るんだ。


一体、どんな順序かと言うと、従業員の数なんだ。 社員百人の社長は、社
員九十人の社長より、上席。 以下この伝だ。


ワシ、社長の息子。 当時従業員五名。 従業員三名の年配社長に、腕を掴
まれて、どうか上席に、と強制され、大いに弱った。 十九歳の若造だぜ。

ワシ、末席の椅子に、しがみ付いて、動かなかった。 年配社長、あきらめ
て、上席に座った。


製造業では、社長の席順。 従業員の数で計られるなんて、知らなかった。
歯科医師の世界も、上下の席順。 けっこう有るんよ。



世の中には、色んな順序があるんだ、と言うお話。

ワシは、仙人だから。 どんな順序も、認めや、せん! がね。


 *     *     *


次段は歯科医師国家試験、漏洩問題だ。 歯科医師、スパイもすると言う
話だ。 かって原稿の、この部分。 ある出版社に見せると、暴露ですか?

言われてしまった、いわく付きの段だ。 だけどワシがこの本で書いた事、
厚生労働省、全部知ってるぜ。


目新しい内容、一個も無い。 暴露か? なんて言っとる君。 情報を
知ら無いだけ。 無知なだけ。

今の世界、情報が、死命を制するんよ。 遅れてますよ。




*     *     *



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