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第 四 章  2 / 4  

< 診療報酬の、不正請求 >





ワシ、前立腺肥大がある。 遺伝的体質だ。 糖尿病も同じ。
四十歳で前立腺肥大、チト早い。  排尿に不便感じた。 専門医の門、叩いた。

そこ超音波持ってない。 検査、オチンチンの先にホースをかまし、造影剤の
圧入だ。 看護師(婦)二人、ワシを羽交い絞め。 プロレスじゃあるまいに。

恥ずかしかった。 こんな時、巨根の奴。 うらやまし。 先生いわく。


あなたの前立腺は四角です。 肥大した角が向き合って、尿道を圧迫してる。
今は薬、やがて手術でしょ。 つまりワシ、カモじゃ。 この手術、二度三度

する患者も居る。 薬、貰って、帰って来た。


二週間に一度、病院の窓口で薬を貰う。 これ四ヶ月間。 最後医者の顔見て、
お仕舞いだ。 来年また来なさい。 保険三割、支払い一万八千円だから総額、
六万円の仕事だった。


次の年の春、小松市からハガキが来た。 昨年、あなたが使った保険料は、
三十万でした。 それ見てワシ、思わず叫んだね。 先生ヤッタな!

これじゃあ、ビルが建つはずだ。 ワシ今、歯科医師。 負けずにやっとるぞ。
ただ残念は、その儲け、自分の懐に入らない。 他人様(院長)の口座へ入る。


 *      *      *


若い先生。 開業せな駄目よ。 院長が先生一人、雇用する。 その儲け、
年間一千万だっせ。 条件に依るけど、勤務医なんて、寂しいよ。


卒業して、一人前になった歯科医師の進路の内、大学で助手に採用される。
これ収入が仲々に良い。 大学の固定給。 悪くない。 アルバイトもすれば

かなり有利な、稼ぎとなる。

ワシの知る先生、卒後五年目。 助手の年収三百五十万。 アルバイト年間
百日。 年収五百万。 合計八百五十万は、医師より悪いが、まずまず良い
生活が出来る。


参考までに、医者の場合を書く。 夜間、救急、僻地へ二年など、身を厭わずに
働けば、三十歳、年収二千万は軽い。  歯科医師、こうは行かない。


だから助手として大学に採用される。 悪くないのだ。 四十歳、講師、アル
バイトこっそり(規則は禁止)、年収千五百万超は、ザラだよ。

卒業して、開業医のところへ行く。 リスクが多い。 上手くやらんと、
貧乏な歯科医師にされる。 一説では、歯科医師のかなりの部分、年収三百万

以下。 教え方の下手な所へ行ったりすると、安月給の上、マトモな歯科医師
に、成り損ねる。 これを踏んだりけったりと言う。 用心有るべし。



< 歯科医師の不正請求は日常的、極く ありふれた行為だ >


ワシ、開業医へ行って、一番最初に教えられたのが、不正請求。 メニューは
決まってる。 これ見て書きなさい。 書いたもの見せると、駄目、駄目!

これも書けるのよ。 これも書けるでしょ。 これも書いて良いのよ。 これ
だって、書かなくちゃ! 先生、もっともっと勉強しなきゃ、駄目よ!


と文句、言われた。


要するに、して無い治療、した事にして請求する。 大学でこんな書き方する
と、何だこれ! 何を書いてんだ!  と怒鳴られる。

開業医は反対で、書かないと叱られる。 この書き方、県によって差がある。
埼玉県と千葉県、かなり違う。 先生によっても、温度差が有る。 ややこしい。


大学の講義だった。 先生、新聞の記事を話題にした。 君ら、あんまりエゲ
ツナイ書き方、すんなよ。 (埼玉県の)この先生、余りにもエゲツナイ書き

方したもんだから、助手の女の子に、内部告発されちゃった。 警察へ電話、
されたんよ。

保険医の資格停止、二ヶ月だ。 この先生、君らの先輩だからね。
新聞に名前書かれて、良い恥、さらしたよ。


しかし別の先生、違う見解で。 この先生、書き方下手なんよ。 いかにも取
って付けた様に書くから、駄目なんだ。

スマートに書けば、こんな事には成らん。 カルテの付け方、下手糞! 自業
自得! それだけの事!


歯科医師は集まって、カルテの書き方を学ぶ。  講師の先生、ベテランだ。
奥の手の書き方、講義する。  聞いてる先生、時にはウオーッ!

歓声を挙げる。 しまった、大損してたぞ! これも書いて良かったんだ!
頭かかえてながら。 取り返しが付かないや! なんて叫ぶ。 笑っちゃうよ。


 *     *     *


当然、支払い側も対応する。(今は止めているが) 提出されたレセプト見て
患者に電話する。 この日、どんな治療を受けましたか?

次に歯科病院へ電話する。 患者、受けて無い治療が、書かれてます。


歯科病院、必ず謝罪して訂正する。 これを実行した支払い組合、年間四億円
の節約になった。 しかし歯科医師側からの反発、ものすごい。

その会社の製品。 徹底的に不買運動。 会社、負けてしまい、審査中止。


ワシも歯科医師の一人だ。無罪ではない。 ただ給料取りの分際だから、こん
な事、書いて居れるのだ。 ワシみたいに、儲けようなんて、丸切り考えない

唐変木(とうへんぼく)は、何してても良い。 だけど、だ。


美人の嫁さんに、かしずかれたい。 豪邸に住みたい。 外車乗り回したい。
ゴルフも楽しみたい。 美味美酒に舌鼓(したずつみ)を打ちたい。

こうなると、審査は死活問題だ。 決死隊、雇ってでも、阻止する。 ゴルゴ
13。 来て下さい! あいつらをやっつけて下さい! に成る。


ワシみたい。 玄米喰って、十年一日、同じ服着てる様な仙人。 基準にして
もらっちゃ、歯科医師、迷惑する。


 *      *      *


ある教授だった。 講義で、この問題を取り上げた。 ドイツの薬だよ。
歯周病に有効だと言うんで、歯科医師会、猛烈に運動して、厚生省に認めさ
せた。

保険適用。 その結果、どうなったか?


来院する、全ての患者に、この薬を処方した。 仕入れ価格。 もっと下げ
たい歯科医師。 現金、カバンにぶち込んでトラック、製薬会社の門前だ。

卸価格で車一杯、この薬を買って来て、それを来院した全患者に処方した。
保険の支払い総額、たちまち膨大に成った。


一年後、厚生省、悲鳴を上げて、保険中止。 しかしこの間、目端の利いた
先生、億の収入を取った。

歯科医師会、保険点数で厚生労働省をなじっているけど、我々歯科医師の側
にも、いけない事、有るんだよ。


だから歯科医師会が、何を言おうと、彼等は、鼻で笑うだけ。 我等にも
前科が有る。 それにね、歯科医師の中には、政治的な動き、したがる向きも

あるようだが、君らそんな事してるヒマ、有ったら、カルテ上手く付ければ、


目的、簡単に達成できる。 収入、簡単に増やせられる。 政治運動するヒマ
に、インプラントの打ち方、勉強した先生の方が、勝ちだよ。 政治運動して

る先生、例外なく、腕、落ちてる。 そのくせ料金は、高い。


患者、歯科医師会の重鎮の経営する歯科医院は、行かない方が、身の為だよ。


 *      *      *


ワシの体験、二つ書く。

卒後、一年目だった。 夜の八時。 診療の終り。 院長その月のカルテ、全部
持ってきて、悪いけど手伝って。

何するんだろう? 分母を増やすとは、何のこと? 埼玉県、貧乏なんで保
険の支払い総額、診療回数で割る。 この金額が基準を超えると、指導が入る。

お上に来られるの、誰でも嫌だ。 これを防ぐ為に、分母を増やす。
一件当りの単価を下げる。


何をするんか? 簡単だ。 カルテ出して、適当な日に来たことにして、加筆
する。 文字書くと時間が掛かるから、判子で済ます。 歯周病検査とその治療。

これなら判子で出来る。 一件千円から二千円。 ポンポンポンで六千円。

ワシ、チョイいたずら。 全部休診日にした。 院長と女の先生二人と
ワシの四人。 二時間掛けて、ワッセワッセ。 汗掻いて不正カルテ付けた。


来て無いのに、来た事にして、カルテを入れる。 四人で二時間。

入力の歯科助手に聞くと、総額三十万円増だって。 悪く無いよな、諸君。


 *      *      *


二つ目の不正請求。 ワシ自身の係わり(かかわり)だ。

ワシ、ライセンス取ったのが五十五歳。 普通なら歯科医師、リタイアの
見えてくる頃だ。 この年で新米、かなり辛んどいよ。


行った先の院長、ワシに言った。

先生、訪診(訪問診療)して、くんない? ワシ、よござんす、やりましょう。
てな訳で、最初の仕事、訪診だった。 何の事は無い。 歯科キット持って、
患者宅へ行き、スケーリングするだけだ。


最初の半年は、面白かった。 それから悩んだ。 こんな事してて、良いん
だろうか?  まだインレーさえ、入れた事無い。 院長に相談。 理解して
くれて、歯科医院、紹介された。 やっと一息付いた。


有り難い事に、やがて、歯科医師もどきに、成れた。 あくまで、もどきだ。
この辺が危ない。 生兵法は、怪我の元。

それでも何とか、皆さんに助けられ、一人で店番など、したものだ。
当時、週二回の訪診、残り三日が、チェアーワークだった。


その頃だ。 手伝いに来てくれ。 ある歯科病院。 院長入れて四名の布陣。
一人は新卒。 こりゃまだ、戦力では無い。 実質、先生、三名だな。

見てると、その病院。 訪診しとるや、ないか。 こりゃ、商売敵(しょうば
いがたき)どっせ!


或る日だ。 新卒の先生、女の子連れてお出掛け、おいおいおい! その女の
子、無資格者だろ! まずいんと違うか? 新卒の先生、ええ無資格者です。

でも彼女、もう四年も訪診のアシスト、してます。



冗談は止せ! 経験四年だから、許されるとでも、言うんか? 歯科衛生士
の無資格者。 保険請求、出来んのだぞ!

これに対する、新卒先生の返事。 ボクに、いちゃもん付けても、困ります。
院長に言って下さい。 時間が無いので、行って来ます。


ワシ、玄関で、若い二人の出発、呆然と(ぼうぜんと)見送った。 なるほど
こんな手も有ったんだ! いっその事、先生も偽(にせ)で良いんだ!

諸君ら、知らないだろうが、偽医師、偽歯科医師。 結構、多いんよ。
訪診(訪問診療)のメンテ(メンテナンス:お口を、奇麗にして上げる)

なんて、偽(にせ)歯科医師で、充分なんよ! 衛生士も、気の利いた女の
子で、間に合うし。 そうか! 真面目に考えてて損したぞ! ワシ、おなかの

中で、叫んでた。


 *      *      *


訪診のどこが、そんなに良いのか? と言うと。 患者宅の玄関で、こんにち
は! を言っただけで。 衛生士の訪問。 口腔衛生指導なる名目で、三千五百円。

歯科医師は、八千五百円。 合計一万二千円が、ポンと入る!


工事なんかしてると、返って売り上げが落ちるんよ。 何もせずに、
今日は! 今日は! 今日は!  を、沢山した者が、勝つ!

スケーリングしか出来ない、新卒の先生が、だよ。 歯を削るベテランの先生
より、売り上げが大きい!


下手すると、三倍の差が出る! ただし、三倍の利益を上げるには、テクニッ
クが要るけどね。 ワシ、その日、どえらいヒント、入手した訳(わけ)だ。


キャホーッの日、だったのだ!


 *      *      *


くだんの新卒の先生。 ワシに見送られて、無資格者(歯科衛生士)の女
の子と、ルンルン気分でお出まし、午後の三時だった。

五時にはお帰り。 二時間だ。 ワシ、早ええじゃ無えか? 手抜き
でも、したんか? 新卒の先生。 ニタニタして、無言。


机でカルテ、付け始めた。 カルテ見ないで下さい。 見るな、だとお?
見るなと言われると、ますます、見たくなる!

四人の患者だ。 二時間で四人だぜ。 手品使わんと、出来ん技(わざ)だ。
訪診、移動時間が有る。 これを差し引くと、一人、十五分だぜ。

十五分では、キット出して、格納したら、お仕舞いだぜ。 仕事の時間が、
無い! キット出して、何もせず、格納して、帰ったんか?


キットは、二人だけ、出しました。 あとの二人、技工物、持って行っただ
けです。 な、何ぬう? 今、おぬし、何と、抜かした?

技工物、持って行って、お届けに上がりました。 と言うて、一人、二万円か?
そうです。 そ、そうです。 だとお!


ワシ、開いた口が塞がら無かった。 しばし呆然だ。 そうか、そんな手も
有ったのか?  目から、ウロコ、の思いだった。 この日の新卒先生、

二時間で八万五千円だぜ! 技工物無し。 歯科材料無し。 丸儲けじゃな
いか!  不正請求も、良い所だ!


時間、四万円だ! 患者の数、多ければ、莫大な売り上げに成る! ワシ、
言葉を失い、しばし、呆然(ぼうぜん)として、立ち尽くした。


 *      *      *


帰るや否やだ。 院長捕まえて、こんなやり方、有りました。 すぐ
真似だがや。

効果てきめん。 売り上げ、ごつう、アップよ!  しかしその後、院長。
あれは、まずい。 技工物が出来ました。 で、二万円は止めたよ。


本当に止めたんか? 真偽の程、よく分らんが。 ワシの技工物、いつも、
先に届いて居るから。

技工物を、お持ちしました。 は、続けとるのだ。 カルテを入れてるか、入れ
て無いのか? の違いだけ。 入れようが、入れまいが、こちとらの賃金とは、

関係、御ザンセンので、くれぐれも皆様。 お間違いの、無き様に!


以上の事。 厚生労働省は、すべてご存知だ。 ワシの文に、新知識、一つも
無い。 

こんな事(医師、歯科医師の不正請求)。 いつまで続くのかしら? と聞か
れる。 泥棒がこの世から、一人も居なくなるまで、続くだろうと、答えてる。


つまり、永遠に、続く。 のだ! ただし、形態は、変わるだろうがね。


 *       *       *


歯の神経を抜く仕事をエンド(歯内療法)と言う。 保険点数が低いので有名だ。
大学で、こればかしの先生。 一日の売り上げが一万にならないんよ。

開業してて、これじゃあ生きて行けない。 よってカルテ、虫歯の治療を一本
書く。 もちろん、そんな治療はしてないよ。


こうして歯科医師、息を付く。 これは不正だけど、止める訳には行かんのだ。
開業歯科医師、何万名か知らないが、大学と同じ書き方をしてる所なんて。

一軒も無いと思うよ。


このエンドの治療は、不正請求の多い科目でね。 ラバーダム一枚十点、百円だ。
でも歯科医院に、(ゴムの)ラバーが置いて無いんよ。 なのに請求がある。

培養ってえのは、歯の中に、細菌が居ないか見る検査なんだが、これを本当に
してる歯科医院。 見た事ないぞ。


そもそも培養検査って、どうするの? ワシ、した事ないよ。 道具も
見てないよ。 そんな道具、そもそも無いぜ。


こんな具合に、歯科医師の毎日は、不正請求そのものなんよ。
当然ながら、ワシも同罪だけどね。

ある先生、歯科医師のは、医師の不正請求ほどでは無いそうだ。
それ聞いてホント、安心したよ。


 *       *       *


医師、歯科医師の儲けたい気持ち。 支払い側の資金、乏しくなった為に、壁に
ぶつかっておる。 支払い側にワンサカ、お金の有った頃。 医師と歯科医師

お金が天から、降って来た。 カルテ、付け放題。 当時を懐かしむ
年配の医師、歯科医師。 少なく無い。


こと、極まれば、反転す。 峠(とうげ)を、登り詰めれば、降るしか無い。
理の当然。 事物(じぶつ)の、しからしむる所だ。 必然の形(かたち)である。

医と歯の天国も、取れるだけ取り尽くした今。 新しい局面へと、転換を、始め
ておる。


不正請求は、保険点数の低さを補填する、ガス抜きの穴だ。 支払い側、
あこぎで無い限り、大目に、見てくれる。 あられも無き不正請求は、摘発さ
れる。

保険の不正請求。 どの水準まで許されるか? は、支払い側との力関係で、
おおよそが、決まる。


不正請求は、絶対に消滅しない。 自費にだって不正請求は、有る。 いや、
吹っかけの利益とでも言うべきか? この入れ歯、三十万? それとも四十万?

インプラントの、ある先生。 一本十万。 ある先生は、二十五万。 別の先
生が、三十五万では。 どれが適正価格なんじゃ? 一本、四十万の先生。 ワシ

知っとるが、結構、流行(はや)っとるぞ。



(患者の為の歯科医学。 インプラント編)


詳しくは、当書店の雑誌。 くじらの仲間で、見て欲しい。 インプラント
打った患者で、インプラントの世界。 よく研究して、正確な知識を持ち、

その上で、歯科医師を決め、施術された患者なんて、居(お)らんのと違うか?


諸君らの近所に、インプラントした方が居られたら、是非、聞いてくれ。
インプラントの世界。 どこまで知ってるか? を。

だったら、ワシが知ってるか? と言うと、これが正直、メダカの脳みそ、でね。
井の中の蛙(かわず)も、良いところ。 一緒に勉強しよう。


これからの歯界(しかい。 はかい、じゃ無いぜ)。


いよいよ、インプラントだ。 歯科医師は言う。 ここ、インプラントに
しませんか?  他は(よそは)一本、三十万ですが、うちは、

たった二十万で、打ってます!


こう言われる! むかし、歯を抜かないので有名だった先生も、今や、
ぐらぐらの歯、治療するより、抜いて、インプラントの方が、良く噛めます!


宗旨変え。 なされたんじゃよ!


歯科医師の世界。 どこへ行っても、インプラント。 インプラント。
インプラント。 なんじゃよ!

インプラントで年収、三億。 四億。 それ以上の先生。 英雄。 成功者。
とにかく、すごい!


腕の良い先生。 成功した先生。 保険は、扱わない。 自費のみ。 つまり
貧乏人、お呼びじゃ無い。 って事!

貧乏人は、あっちへ行けっ! って事。


 *       *       *


ある先生の歯科医院。 一階、保険の患者。 二階、自費の患者。 保険の
患者さんは、一階の勤務歯科医師に、診てもらって下さい。

自費の患者様。 院長、自(みずから)、二階で治療いたします。


院長の入れ歯、百万円。 二百万円だ。 入れ歯には二種類有る。 歯が一
本も無い患者。 全部床義歯(入れ歯)である。

一本でも歯が有れば、部分床義歯と成る。 この二つ、思想が違う。
ワシは部分床の方なんで、全部床は正直、やや弱い。


大体において、患者、配当されない。 いよいよ判らない。 ワシの入れ歯、
自費の四十万から五十万。

値段の交渉、相棒任せ。 ワシ卒業して五年。 お金の交渉、したこと無い。
自慢には、ならん、話だがね。


大学では教授。 似たような入れ歯。 三十五万だ。 五年目の先生の入れ
歯。 何でそれより高いんじゃ? と言われたらワシ、返答に窮する。

相棒の営業が、上手い。 と言う事は、吹っ掛けかな? とにかく、一心に
作っておる。 許されよ。 と、書いて、日本的心情だと、思ったね。


 *       *       *


次は知り合いの奥さん、ほっぺに、ブツブツ。 帯状疱疹だ。 ウイルス性
疾患。 ウイルス、神経の根元に居て、患者の免疫が低下すると、

表面に出てくる。 最初は、赤いブツブツ。 最後水泡になって、治癒に向
かう。 この水泡の水、ウイルスがワンサカだから、破っては、いかん!


破ると、水が出る。 自分の身体の、別の場所へ、感染が広がる。 他人が
触れば、その人へも、感染が広まる。 用心、用心。

その奥さん、近所の医者へ行った。 先生いわく、特効薬が有ります。
注射一本、五万円です。 二本打ちました。 合計十万です。


ワシへの電話。 注射、打った後だった。 こんなん、ありふれた疾患な
んよ。 大学病院なら健康保険。 一万円でおつりが来る。 患者素人。

担がれた。


生老病死、いやでも経験する。 患者と医師(歯科医師)の関係、人間が存
在する限り、付いて廻る。 力関係で境界線が、医者の側に有利だったり、

患者の権利が、優勢だったりする。


 *      *      *


ワシの兄、三歳で死んだ。 昭和二十一年。 敗戦の直後だ。 医者は
法外な治療費を欲求した。 父の全財産より大きい治療費。

払える筈が無い。 兄は、治療も無く死んだ。 三十年後、車で走ってると、
父、物凄い声で、 その道を行くな! と言うんだよ。

その道の先、兄を診た医者が、病院を開いていた。 この先生。 晩年、
小松市の名誉市民に選ばれた。


こんな話。 昔は、掃いて捨てる程、有った。 母親が先生の足に取りすがり、
子供を助けて下さい! 泣き叫ぶのを、邪険に、足蹴りにして、医者が言う。

治療費を払えば、何時でも薬を出す。 子供、助けたければ、金、持って来い!



昔は、この手の話。 多かった。 明海大でも古い先生は言う。 昔は診て
貰えるだけで、患者、感謝して、泣いたもんだよ。

今とは偉い違いだ。 そして、更なる医療の地殻変動。 アメリカから来て
おる。 この変動。 医療を含む、日本の総体の変動、なんじゃよ。


 *       *       *


 参考本  < 奪われる日本 >  関岡英之著 * 講談社現代新書


この本の、医療に関する部分。 攻撃するアメリカを悪。 守る日本の医療
を、何か、麗しき(うるわしき)善。 と、しとるのは、賛同、し難い。

攻撃してくるアメリカの悪。 は、その通りだと思う。 だけど、歯科医師
の仕事しとるワシ。 日本の医療の有り方。 やっぱ、それなりに、問題を
抱え(かかえ)とるよ。


麗しい(うるわしい)とは、とても思えん。  しかし、まずは、関岡氏の
主張を見よう。


 *       *       *


アメリカは、要望書を通じ。 日本の医療制度を破壊して、弱者切捨てを勧
告する。 医療をビジネスに変える。 壮大なる仕掛け、かましておる。


弁護士を増やす法科大学院も、医療をアメリカ流に変える、布石の一つだ。
つまり日本も、医療裁判が、炸裂する! ちゅう事なんじゃ!


今の保健医療制度。 拙い(まずい)所、沢山有るわな。 ヒポクラテス的
であるべき医療を、金儲けの手段と考える輩が(医師、歯科医師が)

増えるに連れ、日本の医療、確実に、変質しとる。 そこへアメリカの
年次改革の要望書だ。


ワシ、開業医に、不正請求、戦略的に、自重しろと言いたい。 このままで
は、支払い側。 破綻は必至。 やけくそでアメリカの提案、受け入れる可
能性、無きにしも非ずだ。


医師会、歯科医師会。 ひょっとすると、ここ、歴史的、大一番の瞬間かも
知れんぞ。 作戦を立てて、戦略、間違えるな。

少しは善良そうに行け!


と、高所からは言えるんだがね。 実際に歯科医師を、してみると、貧乏人は
すでに、斬られて居るんよ。


 *       *       *


学生時代、病院見学の勧めが有った。 見学先、成功した先生よ。 先生誇
らしげに言う。 ボクのところ、自費率、八十%です!

学生、ウオーッ、スゴイ! と歓声を上げる。 さて、自費とは何ぞや?
受付で保険書出すような貧乏人。 来ないで結構です。 ウチは金持ちの患

者だけで、十分です。


と、言うとるわけよ。 自費は!



ワシ商売柄、腕の良い先生、いろいろ知ってるが、皆さん、保険医、廃業し
とる。 うちは、自費の扱いしか、しません!

保険の入れ歯。 十個作るより、自費の入れ歯。 一個の方が、儲かる。
とにかく、自費だ! 保険は数で、 自費は質だ!


これ貧乏人、あっちへ行けの意味。 インプラントしかり。 金合金の入れ歯、
またしかりだ。 アメリカ、来なくても、日本の医療、すでに変質しとんのよ。

日本の医療、うるわしく(麗しく)無いんよ。


 *        *       *


そこへアメリカだ。 自費医療。 高額医療。 加速される。 アメリカ、歯
の神経、抜きました。 三十万円。 金冠なんて、五十万くらい言うそうな。

盲腸の手術が、二百万円だからね。 払える人は、良い。 払えない人は、
お帰り下さい。


なにしろアメリカ。 交通事故で怪我するだろ。 救急隊員。 怪我人のホッ
ペ、ぶつそうだ。 保険、這入ってますか? 這入ってれば、よし。 救助。

這入ってないと、怪我人、そのままにして。 救急隊員。 帰っちゃう!
治療費の払えない人は、救助、されないんよ!


アメリカ。 日本も、そんな風に、する気、らしい。 およよ、だっせ!


ここで、かっこ良く。 日本の医療の、有るべき姿。 一席、ぶちたいが。
歯科医師界の現状。 見るに付け、知るに連れ。 恐ろしき複雑系の感。

するんだな。 さらには、困難を倍化させるもの、有るんだ。 それは人の欲だ。
儲かる話、しか、耳に入らない! 損は、爪の先程でも、絶対に、絶対に

受け入れ、拒否! 人間の欲望ほど、手に負えぬもの、無し。 じゃよ。



< 余談ながら >


ワシ、赤ひげ、嫌いじゃ。 医療費、只ほど高いもんは、無いんだぜ。
ブラック.ジャックも、同じ意味で、注意が肝要だ。

あのイメージと世界観。 魅力的だけれど、ワシは、反対す。 医療費の
無料化。  医師(歯科医師)のモラル。 低下させる。

およそ医療費の無料化は、社会主義国。 共産国のオハコだが、その国の
現況を見よ! 医療、悲惨に成っておる。 社会の弱者。 捨てられておる。


あいも変わらぬ、医療の無料化。 社会主義的うるわしさ。 これに引
っかかると、世の中、痛い目に会う。

人間の欲望が、制度の裏を、掻く(かく)からだ。 これを見据えた戦略を
立て無いと、ため息を付いて、終わるのみ。


 *       *       *


だから貧乏人も、貧乏人なりの医療費。 払わないと、結局、安物医療の
犠牲にされるって事なのよ。


それからだ。 本なんか出版して、自分の良心的医療。 公言(高言?)
しとる先生。  みんな、みんな、自費や、ないか!

自費。 何回も言うけど、貧乏人は来るな! って言う事、だっせ。


 *       *       *


この本は、大学生活の記録だった。 卒業して五年も、燻ぶ(くすぶ)ってた
ものだから。 つい、娑婆(しゃば)の話題に、深入りし過ぎた。

この問題に、気の利いた結論、有りゃあせん。  人間の欲望に晒され
(さらされ)た制度。 改善案は、骨抜きにされるだけ。

人間の欲望の、上を行く作戦。 必要なんよ。 これは、くじらの雑誌で
論ず。


 *       *       *


ここで、入力の方、質問。 わたし達、どんな歯科医師に、診て貰えば良い
んですか?

詳しくは雑誌。 くじらの仲間に譲るが、結論。 心掛けの良い先生の処へ
行け! 歯科医師たるワシの実感。 最後は、歯科医師の心掛け、のみ、
じゃよ!

それから、患者の側にも、問題が多い。 先生に惚れる(ほれる)と、その
先生を、歯科の万能者と見てしまう。 これ、良くないんよ。


歯科医師の守備範囲。 恐ろしく広い。 美空ひばり級の先生。 そうそう
居ませんよ!  居たって、保険の患者なんか、相手に、しますか!

この点は、アメリカが優れ(すぐれ)てる。 ひとつの治療。 何軒もの歯
科医院、廻って治す。  日本の大学歯学部の、付属病院の方式だ。


明海大学も、これだ。 患者さん、専科を廻りつつ、治療が進む。
専科の先生。 それ、ばかしだもの。 上手くなりますよ。

開業歯科医師、何にでも対応する。 よって、全部、生煮え。 に、成り易い。
専門を持った先生が、望ましい。 患者が、一人の先生に、全てを求める。

あれ、困るんよ。 かと言うて、専門の歯科医を揃える(そろえる)。 院
長に経営者的能力、求められる。 こんな先生、そうそう居ないよ。


患者、歯科医師なら何でも出来ると、思う。 あれ、困るんね。


 *       *       *


< 保険医療の問題点、 一つ書く >


身内の経験だ。 93歳で死んだ、ワシの祖母だ。 90歳、越し
とるんに、身体、むずむずする。 言うて、乳母車押して、毎日二時間。

町中(まちなか)を、歩き回るんね。 元気も元気。 スーパー婆さん。
午前中はいつも、行き付けのお医者さん。 ワシ、言うたんよ。


病気でも無いんに、医者なんか、行くなよって。 するとだ。 婆さん、腹立て
た。 みんなが(同年の仲間が)医者行って、お金、年に六十万以上、

使うのに。 わしだけ、まじめに行かなんだら(行かなかったら)、損をする!
ちゅうんよ(と言うのよ)。


諸君ら、これを、どう思う?


それからね。 医者へ行ける老人。 強者なんよ。 本当に弱い老人。
医者へも行けない!

元気な老人が、只の老人医療費。 全部、食い尽くして、医療が本当に必要
な年寄りを、助ける資金。 無くなったんよ!


医療の善政。 医者と患者の、良識、有ればこそ。 なんよ。 取れるもの
取らないと、損をする! なんて国民が相手じゃ、善政も、食い物にされる
だけ。

それから、医師(歯科医師)の、悪乗りも有るしね。


何でも無料にして、国民の為に働いたと思う政治家。 ちょい、反省しろ。
最後の最後。  国民は痛い目に会うんよ!  ワシらが、痛い目に会う
んよ!


それからだ。


ヤッパ、何んだ。 金儲けしたい人間。 医者、歯医者の世界へ、来ちゃい
かん、と思う。  金儲けは、別の方角でしろ!  と言いたい。


 *       *       *


< 保険治療と、自費治療 >


大学時代のノートから、この辺の話題。 集めてみる。

ある先生。 ワシに言った。 先生、開業せな、あかんですよ。 開業すれ
ばね、六百万の仕事で、一千万以上の収入に、成るんです!


これ、カルテの、いんちき。 不正請求の勧め、だすな。


五年次だった。 座学の最後だ。 れっきとした講義。 講師。 理事長だ
っせ。 弁護士を含む、スタッフの講義もあった。

いわく。 開業したら、とにかく、来た患者さん。 丁寧に、丁寧に治療し
て上げなさい。 最初の一年間は、信用を付ける!

あの先生は、良い先生だ。 と言う評判を取る。 そうすればね、二年目、
三年目。 先生、ここ、自費でお願いします。


患者の方から、自費が、舞い込んで来ます! 豊かな生活が、向こうから、
やって来ます!

最初は、自費を取ろうなんて、するな! 最初は、患者さんの利益、第一に
真面目(まじめ)に、真面目に、仕事、するのよ!

そうすれば、必ず、自費は、向こうから来ますからね。 この順序を、忘れ
ないでね!


大学の、病院経営の講義が、これだ。 保険の治療だけでは、歯科医師のメ
リット。 小さい。 講義の中心。 自費、売り上げの、何十%、か?

に集中する。 こんな具合に、歯科医師、自費率が、重大問題だ。
受付で保険証を出すと、女の子、あらかさまに、嫌な顔する歯科病院。


地方には少ないが、東京には、けっこう有る。 この進化したものが、うち
保険診療、してません。 に成る。

だからだ。 保険の患者しか来ない、底辺の、貧乏歯科医師から。 自費し
か扱いません。 の、高級歯科医師まで、ピラミッド、なんよ。


特に最近、自費の中に、インプラントが有るもんだから、インプラントしか
しません! の、超高収入歯科医師が、ピラミッドの頂点で、ひかり輝いて

おる、わけだ。 保険、一ヶ月の稼ぎ。 インプラントなら、二日かな?
歯科医師は、この頂点の人に、成りたいのだ。


成れた歯科医師と、成れなかった歯科医師の差。 患者を集める、才能だ。
カリスマに成れる、天分だ。 技術なんて、二の次よ。


人気歯科医師に、成れるかどうか? 問題は、ここに集中する。


インプラントだけで、行きたくとも、患者が来なきゃあ、始まらん。
北島三郎に成れなかった人。 場末でギター、弾いてなきゃ、生活出来ない。

歯科医師なら保険、となる。 保険の患者でも、診るか。 って事に成るわ
けよ。 こんな話。 歯科医師のうちわ話。 (歯科医師は)みんな知って
るけど、


書くのは、ワシが最初かも知れん。 と書いてると、抗議が来た。 別に、
久治良先生が最初でも無いですよ。 そりゃ、失礼、つかまつりました。


 *       *       *


歯科医師の世界も、階級が有ってね。 自分一人の先生は、分院を持ち、
何名もの歯科医師、子分にしてる先生の前では、ちょい。 へり降るね。


インプラント、打ちまくりの先生。 羽振りが、良う、御ザンス。 生活が派
手に成るのは、収入の多さ、のみならず。 仲間との見栄も有りましてな。


どんな世界も同じだが、歯科医師の世界も、ピンからキリ、なんよ。 自費
の問題。 深刻よ。

貧乏人。 悲観しても、詰らない。 貧乏人の歯科の戦略。 雑誌に書いと
く から、見てく れ。


それから、腕は良いのに、人気の無い先生。 ワシ、掘り出して、紹介したい。
良い治療、比較的安く受けるよすが。 手助けが出来たら。 と思ってる。

良い先生は、結構、居られるんよ。 だけど、それ以外の才能が無いから、
場末で、くすぶっとる。


ワシ、掘り出したい!


 *       *       *


この章の問題は、雑誌の中。 ( 患者の為の歯科医学 ) で論ず。

続く段では、大学の色んな問題を、考えてみる。





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