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第 一 章  5 / 7 

< イッ、イヤな人は治療しない、だとおっ! >

牧 純先生の海外行と講義は
この段の下の方にあります。




< イヤな人は治療しない >


一年次だ。
行動科学は非常勤講師、東大大学院所属、一戸真子先生だった。

グループ討論の議題は、歯科医師の権利について。
あるグループの代表、前へ出て発表した。 終わると顔を上げて言った。


何か質問は有りませんか?
教室は、水を打ったように静かだ。ワシ一人、挙手して、発言を求めた。

今、嫌な患者は治療しないと、言われましたが、それ、そんな簡単に言って
いいのかな?

壇上の女の子、押し黙ったまま、返事せん。 この時一戸先生、興奮気味の
声、代わりに言い出だされた。


あなた達は、歯科医師に成るんでしょ。
歯科医師は法律で、応召の義務が課せられているのよ!

治療を求めてきた患者さんは、治療しなければ、ならないのよ。
それを何よっ! 嫌な人は、治療しないだなんてっ。


そんな考え方の人は、歯科医に成って欲しくないわっ!
歯科医師になる、資格が無いのよっ。
そんな気持ちの人は、歯科医師に成っては、いけないのよっ。

そんな事、どうして判らないの?
そんな人は歯学部、止めなさいっ。止めて欲しいわ。止めるべきなのよっ!


 *     *     *


ワシは不思議で、仕方無かった。
嫌な人は、治療したくない。治療しない。と言う意見、討議の段階で、
何故、潰さない?

そんな考え、前へ出て発表すれば、批判されて叩かれるの、当たり前。
嫌な人を、治療したくない気持ちは判るが、口に出せば、非難される。
その思い、胸の内に秘めておけと、誰かが言って止めれば、済む事だろ?


こんな簡単なことを、誰も言わない。前へ出て、そのまま読む。
嫌な人は、治療しない。


若い学生の仲間意識が、分らない。


しかし是は、現代の若者の、処世術の一つ。
仲間内では、どんな事も批判しない。 反対しない。
そうですね、そうですね、私もそう思う。

反対を一度でもすると、仲間で無くなる。スポイルされる。追い出される。
シカトされる。 嫌な人に、されてしまう。


嫌な人とは、話もしない。嫌な人は、治療しない。
同じ水準を、平行移動してるだけ。

つまりお母さんと、余りに長く親密だったので、今だ胎液に浮いてる気分
そのまま、続いてるのさ。 これ以外の問題も、根は同じ。
日本はつまり、ネンネの国に、成ったのさ。


一戸先生の発言で、学生が反省したとは、思えない。
当惑顔で終るのを、待ってた、だけ。

同じ事は四年次、山本歯学部長の、最終講義でも、有った。
学生の質問、嫌な人が来たら、先生はどうしますか? 相性の合わない

患者を相手にする時、他の患者と変わらない様に診る為のコツ、
有りますか? 山本歯学部長は、答えた。


患者さんと、相性が合おうが、合うまいが(合わなくとも)
我々は診る義務が、有りますから、割り切って診て行く事です。
コツと言うものは、特に有りません。


< 嫌な人は治療しない。 の続き >


六年次の臨床実習だった。ワシ等のグループは大学病院の五階、快適で
広い会議室に、集合した。 結構ステキな女の子、

若い先生を指で示し、あの先生なら二日間、ゴハン作って上げる。
あの先生なんて、半日かな? フフフッ。

彼女、何を言ったのかと、申しますと、
あの先生はゴハン、二日分の魅力しか無い。あっちの先生は、半日分、
と言う意味。 この子、自信家だ。


良い機会なんで、質問した。
嫌な患者さんが来たら、あなた、どうしますか?
彼女、即座に答えた。

その時は、治療して上げる。でも、もう来なくて良い。来て欲しくない。
来ても、治療して上げない。


嫌な患者さんを治療したくない、の気分は、一部の学生の潜在意識の中、
今も潜んでいる。
厚生労働省さん、どうする? 医療倫理の先生、どうする?


 *     *     *


臨床実習では我ら、先生のアシストをする。
患者さんが嫌なタイプの時、若い学生、潮が引くように、スーッと後ろへ
下がる。 これ、久治良さんの患者さん。

好まれるタイプ、お金、持っていそうで、上品な、中年のご婦人。
ウチの大学病院、なぜか、この手のご婦人が、多い。
若い学生が嫌う患者さんを、ワシは一人で、アシストしていた。


< ついでだ、人間の度し難い処を、見て行こう >


* 本 *  夜と霧  * フランクル著 


医療倫理の必読書に、指定。
我ら、夜と霧と聞いても、別に何とも無いが、ナチス.ドイツ占領下では、

ユダヤ人は、夜と霧作戦で、それこそ夜と霧の彼方へ、連れて行かれると言う
話。当時のユダヤ人は、この言葉を耳にしただけで、青くなり、震えた。


フランクルは、オーストリアの哲学者、妻と娘は収容所で死んだ。
彼自身は、生き延びて戦後、多くの著書を物してる。

彼によると、収容所のユダヤ人は、団結してたんじゃあ、無いのだ。
例えば食事、命に係わる一大事だ。 フランクルは書いている。


配膳の連中は、仲間が来ると、スプーンを鍋の底まで入れて、具の多い処を
入れる。 どうでも良い奴、仲の悪い奴、気に食わない奴が来たら、
鍋の上の方、上澄み液みたいな処を、掬って入れる。

だから、公正な男がスプーンを持つと、何かホッとする。
彼は、誰彼無しに、同じように入れてくれる。


あのナチの収容所の中で、ユダヤ人同士が、こんな事をしていた事実に、
唖然とします。 フランクルはまた、こうも書いてます。

ユダヤ人が、本当に恐れたのは、ドイツ人では無い。 彼らが心底、
恐れたのは、ナチに協力して働いたユダヤ人だ。
収容所で彼等は、アポーと呼ばれた。 彼等は、際限無く残酷になった。


ユダヤ人が、ユダヤ人を、殴る、蹴る、遂には殺す。
こんな風景は、映画には絶対、出て来ない。
人間は、こんな状況の中でも、悟り切れないもの、らしい。

学生の、嫌な人は治療しないは、潜在意識の中で、今も健在である。
医療倫理は、無力なんだろうか?
諸君、どうすれば良いのだ?


  *    *    * 



< 大学において、教授とは、何んぞや? > 


養老 猛先生と言えば、元東大医学部解剖学教授で、数多(あまた)の著作
物された方、最近ではバカの壁、ベストセラーになった。

先生の本を読んでると、東大の教授も、研究だ執筆だと言っては、講義の手抜き
しとる事が、書いてある。


実はワシも、同じ悩みを持ったのだ。 悩み、基礎課程と臨床課程で、違う。
基礎課程の教授、研究と学会活動が中心で、講義は、何となく
仕方の無い、ノルマみたいだ。

ある教授、部屋のテーブルにプリント、五十センチの厚さに山積みだ。
早朝から深夜まで、ワープロに向かって、仕事、仕事、仕事は良いが、

それ全て、自分が中心で作った、学会の仕事。
ボク、講義の下準備、した事なんて、一度も、ありません。


自慢してもらっちゃあ、困るぜ、そんな事。
自分の作った学会が、可愛いのは判る。しかし学生の側から言えば、
こんな教授、問題だ。 その証拠、この教授の年間の講義ノート、

一時間で、読めてしまう。講義の時は、なかなか面白かったが、
後で、振り返り見ると、中身、極めて薄い。


ある教授、世界的な研究者。 明海大歯(は)の学生みたいボンクラ、
研究室へ来ないでくれ。 邪魔になる。
この教授、ウチの大学では五回しか講義せん。 のこり、スタッフへ丸投げ。

なのに、全国の国公立大歯学部へ行って、その五倍の講義、しとる。 
この教授は、うちの大学の、教授だぜ。 うちの大学、腰掛か?
何か、間違っては、いないか?


ワシが、この大学の経営者なら、こんな方々を、教授にしたりは、せん。


しかしだ。 学生からは不評でも、研究、世界的な教授が居ると、経営者、
会合なんかで、鼻が高いんだそうだ。 そお言うメリットは、有るかも。


 *     *     *


臨床課程の教授、これと反対。 患者の治療なんか、してると、研究、
する暇、有るかいな? 学生相手の講義、バッチリして、ほどほど
論文書いて、基礎系からは馬鹿扱いでも、学生から見て、頼もしい。

と言うのも、学生の志望、臨床医だからね。 亀の子、知らなくても
合格する大学で、高校レベルの化学、履修して、何が研究だ?
何が博士だ? てな事、考えて見ると、


学生の99%の求め、良き臨床医に成れるカリキュラム。 違うかな?


臨床系の先生も、これに悪乗りされたりすると、
必要な時だけ大学へ来て、あとは自分の歯科病院で、インプラントなんか
打ちまくり。 給料以外の年収二億、なんて方も、居ない訳でも無い。


 *     *     *


学生から見て、良い先生は、学生に向かって、全力投球してくれる先生。
ワシがもし、大学を経営したなら、論文、書かんでも良い。研究、せんでも
良い。

学生を教えるのが、大好きと言う先生、だけにするな。
研究したい先生は、しかるべき場所、用意するか、研究者を求める大学へ
行くことを、勧める。


経営方針を、前もって、きっぱりと決め、方針に合う先生のみを採用
すれば、余計な心配、しなくて良い。
明海大歯学部なんて、そんな研究大学では、ありゃあ、せんぜ。 大将!


 *     *     *


私立歯科大、五校は消える運命だそうだ。 ならば経営方針、大転換して、
ウチは良い臨床医、作るだけに特化した歯学部です。 基礎研究を、したい方
国立へ行って下さい。ウチは、教授もスタッフも、

良い臨床歯科医師を作ることに、集中してます。
と言う具合の大学を、作る処が、出ても良いのだ。 ニャロメ!


大体だよ、我が明海大歯(は)の、研究論文のランキング、
歯学部全体で、二位なんだ。 名誉の一位は、どこか? 松本歯科大だ。
但しこれ、下からよ。

研究、研究と、大騒ぎして、下から二位なら、研究、止めた方が、良い。
臨床医の、養成大学に、特化する道を、行く方が良い。 と言う考え方、
実はこれ、故山本歯学部長の構想だんねん。


研究は授業を、レベルアップするものに、制限する。 教授は、80%の時間を、
教える事に費やすこと。 学生に、ライセンスを取らせ、良き臨床医に、する。
そこに集中する大学を、作ろう。 と言う考え方。


 *     *     *


ちなみに、論文ランキング、上からの一位、昭和大学歯学部。
基礎研究をしたい向きは、昭和の歯(は)へ、行け。


ワシ、明海大で六年間、死に物狂いで、勉強したけど、残念ながら、
あのカリキュラムでは、基礎研究、無理。あの程度では、職業訓練レベル。

成績トップテンの学生で、ベンゼン環の、何んたるかを、知らんのが居た。
つまり、そんな事知らんでも、解答出来るんよ。


*     *     *


息抜きだ。 ワシ、五十歳まで鉄工所。 いろんな親会社、機械加工の仕事,
させて頂いた。 仕事、させて頂いきながら、親会社の内情、ここに書くの
は、何んたる事か! お叱りに逆らいて、やはり、書かねばならぬ。

以下を読めば、ワシが、正義の味方で無い事。 ご理解いただける。 鉄工
所、三十二年。 いけない事、さまざまに見聞した内。 ワシ自身が、実行
犯だったのは、次の一件、のみである。


かと言うて、慙愧の念、別に起こらんのだ。 ここに改(あらた)めて書い
てみても、やはり、まずかったとは、感じ無い。 これは相手が、諸君らも
知る、世界の大三菱(重工)だから、だろうか?

良く解らんが、それは、次のような経験で、あった。


 *     *     *


ワシ、三十年間、製造業に従事。 いろんな会社、見て来た。

諸君等の知る会社では、松下電器産業(今のパナソニック)の経営が、
一番優れていた。 かなり下がって本田技研(鈴鹿)、小松製作所(粟津)

今の、株式会社コマツだ。
ガクンと落ちて、三菱重工(明石)今は、キャタピラー三菱へ移管。
三菱重工、明石は建機(けんき)である。 パワーショベル、みたいな物。


短い雑文を挟んで、三菱のどこが、あかんのか? 書いてみる。


多くの会社の経営を、見てきたので、明海大歯の経営にも、何かと、
批判的に成る。 しかしだ、故山本歯学部長、今の中嶌(なかじま)
歯学部長。 経営者的感覚、大変に優れておられる。 期待する所、大だ。

山本先生は、いささか乱暴に、大学を、変えた。 あれでは、波風が立つ。
中嶌先生は、山本先生と違い、民主的に、大学を変えるタイプだ。
本当の改革、この中嶌先生が、するかも。



< ちょい脱線、三菱の下半身問題 >


詳しくは、製造業三十年の思い出に、書いといたから、ここは概略。
三菱の抱える、ある影の部分、知って欲しい。

ワシの高校時代の同級生、最優秀組から二人も、三菱系へ行った。
一人東大、同大学院。 一人京大、同大学院。 大学院では、二人とも奨学

金。 つまり四番以内。 こんな優秀な人間を集めて、三菱、本当に生かし
とるのかね? 三菱の研究経営、スゴイ様でスゴク無いぞ。


三菱は、他の会社と違う。 良く言われる。 どこが違うのか?
三菱、会社を乗っ取ったり、絶対にせん! そんな下品、しないのだ。

それ処か、困っている会社が有れば、行って、仕事と資金を、出して上げる。
宮沢賢治じゃあ無いが、雨にも負けず、風にも負けずの、人物みたいな会社、
なのだ。


ある時、倒産の危機にある、パワーシャベルの販売店が、有った。
三菱、行って助け起し、その会社の、地区販売権を、六億で、買い上げて、
あげた。

それ見てワシ、三菱って、何て甘い会社じゃと、嘆息した。
半年待てば、その会社、倒産必至。 倒産して、二束三文に成った所を、
ただ同然で、買えば良いのだ。 三菱それを、決してしない。


立派と言うか? お目出度いと言うか? 三菱、坊ちゃん会社だかんね。


長銀(今の新生銀行)なんて、十兆円の資産が有りながら、アメリカの
ハゲタカに、十億で、さらわれてんのよ。 この時の、コンサルタント、

ゴールドマン.サックス。 コンサルタント料、八億!つまり、十兆を二億で
取られてんのよ。 我が日本は!


三菱に、リップル.ウッドの真似をせい、なんて言わんが、倒産必至の会社に
六億出すなんて、テメー等、アホか? 坊ちゃん経営、してんじゃあ

無いよ! と言いたくも成る。 こんな会社だから、下請けは、いかさまに
走るんじゃよ。


ワシ実に、この三菱重工の仕事で、心にキズ、作ってしまった。
パワーシャベルの、アームに付ける、ブレイカーなんだが、
(クサビを打ちつけて、ビルのコンクリ等をドンドンと壊すもの)

外箱の軸受け、溶接で取り付ける時、その溶接の開先、
(溶材が溶け込むV字状の処を) 溶接屋と共謀して、イカサマした。

半分、無しに、したのだ。


こうすれば、機械加工、削らなくて良い。(ワシの工場、機械加工だ)
溶接は、図面体積の、半分で済む。

機械加工の時間が、半分なら、溶接時間も、半分だ。 溶接の材料費、当然
半分。 こんな、楽な話、ほかに無いぜ。

見つかれば、弁償もの。 怖い親会社なら、絶対に、しない。
相手、三菱だ、何の問題も、起こらなかった。


当然、溶接部分、強度が不足。 ユーザートラブル、有ったのに、
これからは、注意して下さいで、お仕舞い。 イカサマ、元のまま継続。

ワシ、あんましだったので、向こうの担当者に、仄め(ほのめ)かした事
有んのよ。 反応、まったく無し。 変なこと、言わないで下さい。
ボクらは下請け会社との、信頼関係で仕事、してるんですから。

たしなめられたり、して。


ヤッパ、三菱やなあー。 こんな良い会社、他に無いぜ。
ワシ、加工ミスの責任、取らされて、潰された会社、何軒か見て来た。

情けも容赦も、有ればこそ。 弁償させられていた。 だから三菱、
嬉しく、なっちゃうよ。


三菱のトラックから、タイヤが外れました。 そのタイヤに当って、
母子が死にました。 三菱やからなあー、考えてしまう。

ブレーカーの、軸受けの溶接、イカサマしとると、
こっちが言うとるのに、反応せんのじゃよ、三菱と言う会社は!
普通の会社と感覚、まったく違うのだ。


こんな坊ちゃん経営だから、戦車、戦闘機、原子力発電、ロケットを
作らないと、会社が持たん。 当たり前だよ。 ワシが体験的に言える事、
三菱の、悪口言う専門家、さかさまなんよ。 上から見ては、駄目。

三菱は下半身が、大甘のデレデレだから、どうしても、不可避的に、
自由市場では無い、戦車みたいな、ドカッと利を取れる、共産主義的な経済
分野へ、進まざるを得んのだ。


注意したいのは、同じ三菱重工の造船の仕事、した時だ。 品質管理の、
厳しさに、泣かされた。(株)コマツも、検査の厳しい処だが、三菱の造船
それ以上にきびしかった。

建機だけが、ゆるふん(ふんどしの緩い事)なんかも知れん。 建機、その後
キャタピラー三菱へ移管された。 中国市場を見よ。 日立建機とコマツのパ
ワーシャベル、大活躍しとんのに、三菱、さっぱりやないか。


この辺の差、かって下請けをした経験から、当然かな? 思えてしまう。
ワシの見た不正、いかさまの数々を含めて、詳しいところ、製造業三十年の
想い出に、書いといた。 是非、見てくれ。



< 究極の 海外旅行 >


教養課程、英語、近藤浩一先生の愛称は、帰ってきた酔っ払い。
由来を、説明する前に、先生、得意のユーモアを、一つ、
ボク、年に2,3回、地球を一周する。時差ボケは、無い。

どうしてか? と言うとだね、いつもボーとしてるから、特に時差ボケ、
しなくて、良いんだ。 (ワハハハハッ、笑ってあげませう)


日本、開闢(かいびゃく)以来、空前絶後の、海外旅行ブーム。
猫も杓子もとは、この事だ。 この中で、近藤先生の、海外行、
一味、違う。 究極的、なのだ。

例えば、英国へ行く。

ロンドンからブラリ、汽車に乗り、地図にも無い、片田舎の駅。
羊が居るから、農村だ。 駅裏の、怪しげな安宿に、チェックイン。

一階は、バーだ。二階が、客室。 深更、階下へ行くと、
地元の農夫、集まって、ウイスキー。 降りてきた先生に、胡散臭い視線だ。


そこへ行って英語で、ヨーッなんて声掛けて、ウイスキー、グイッ!
飲みながら、打ち解けちゃう。 酒量、只者では無い。
よくぞご無事で、ご生還。


ある時はアメリカ、深南部、ミシシッピー川の、ほとり。
堤防歩いとると、黒人のおっさん、手を上げて、ヨオーッ、東洋人、
お茶でも、飲んでけっ!


先生いわく、訛りが強うて、何言っとるのか、サッパリ、判らなかった。
こんな具合で、名所、旧跡、素人の行く処。
旅行のプロ、もの凄い田舎、地元の人間と、酒飲んで、帰る。


近藤先生、地球百周。
先生こそ、海外旅行は、一番だと、思っていたら、上には上があるもんだ。



< 牧純先生の海外行は、ヤバイとこ、専門。>


薬理学は東大、坂上教授の後輩、北里大の牧純(まきじゅん)先生。
薬草を取りに、中南米。


メキシコまでなら、簡単に、行ける。
グアテマラは、怖い所だ。 ゲリラが、居まんねん。
日本人を誘拐して、金に換える。

山へ、薬草、取りに行くのは、命懸けの冒険だ。
旧ソ連製の、AK47(エーケーフォーティーセブン)バリバリと来る。

こんな海外旅行でないと、エクスタシー、感じられない向きは、
先生に、連絡して下さい。


その他、先生の行かれる所、ケニヤ、ナイロビと、ヤバイとこ、専門。
薬草採取は、厚手の服、二枚重ね、だそうな。 熱帯だよ。
暑いの、なんのって、でも、マラリヤが怖いから、ガマン、我慢。


スゴイ海外旅行、上には上が、有るもんだ。
諸君等も、パック旅行が、鼻に付いたら、この手の、自動小銃の弾(たま)
飛んで来る所など、いかが?


我が二十九期、学生の海外旅行も、なかなかでした。
正月、ニューヨークに居ました。
安宿借りて、二週間ばかし、ゴロゴロしてました。

朝が、寒いのねえー。 九時ごろ、近所のコーヒーショップ行って、
トーストで、朝めしに、スルンですが、
店のオッサン(黒人)、英語、判りにくくて、ねえー。


次の学生、冬休み、ヨーロッパ。
どこへ行っても、ケンタッキー.フライドチキン、食べてました。ハハハッ!

タヒチで、スキューバ.ダイビングの女の子、あそことあそこ残して、真っ
黒け。 もっともワシ、確認は、しとらんが。



<  牧純先生の、講義から  >


牧純、だ、なんて。 当然、駄洒落の種、ですよ。
この駄洒落、牧純を、ボクじゅん、と読ませる。 (会のメンバーに
下の笑い話、理解せんのが居たんよ)



君、誰あれ?
ボク純です。 姓名は?
ボク純です。 だから姓名は? と、聞いとる、でしょっ!
ボク純です。 君いいーッ! 



演題は、寄生虫学。
北海道の北キツネ、エキノコックス、付いている。
我らの身体に、侵入すると、発症に、十年掛かる。

函館山の湧き水を調べると、卵が有る。 飲んでは、いけない。
モイワ山の北キツネ、背中に、エキノコックス、付いてるから、
撫ぜたりすると、手に、卵が、付いてしまう。


一個の卵を飲み込むと、どうしようも無くなるのに、十五年。
北海道へ行ったら、どんな場所であれ、生水には、飲んでも触れても、
いけない。 野いちごは、絶対、取っていけない。


ワシ、ここまで聞いて、ショックを、受けた。
一年次の、夏休み、北海道の山登り。 どこへ行っても、北キツネ。

本州の、野良猫(野良犬?)みたいに、北キツネ。
ムツゴロウの映画みたいに、牧歌的じゃあ、無いんだ。


エキノコックス、体内に入ると、退治不能だ。死ぬまで苦しむ。
ワシ、大丈夫かいな? と、心配になる。


鮎の生喰い、横川寄生虫(よこがわ きせいちゅう)。
ドジョウの踊り喰い、(ビールに入れて飲む)何か居るぞ。ノートに書いて

無い。 とに角、未知の生物、生で喰うな!
もし食べるなら、よく噛む事だ。 寄生虫を、歯で噛み殺して、食べろ!

そこまでして、食べるなよ。



< 手加減無しで、授業をすると > 


学生相手、手加減無しの授業をすると、どうなるか?
二年次、医用工学を見れば、分る。

選択した学生、八十名だった。
期末試験の、受験資格を得たのは、その内の、三十名。
難解で、量が多い。 学生、講義を、捨てる。


担当のA先生、賞賛したい事が、も一つ有る。
山の如き夏休みレポート、チャント、赤線が付いて、帰って来る。
レポートを出しても、判子だけで中身、何にも見てない先生、居るのだ。

ある学生、テメーはアホだ、チャント読め! と書いたけど、
何も、起こらなかった。

ある学生、いつも、ギョーザの作り方、書いて、成績上位。
こんな先生も、困る。 先生が手抜きしたら、お仕舞いだよ。


こんな中で、医用工学の、手加減無しは、救いだった。
材料学のA先生も、手加減が、無い。 プリント、ビシーッと、見てくれた。
手加減しない先生が、居なかったら、明海大歯学部は、お仕舞いだぜ。


 *      *      *


今度は、駄目な方を一つ。
十五分遅刻して、三十分早上がりの先生は、正味、四十五分の、授業。

学生、先生を馬鹿にして、私語、すさまじく、講義室、爆音の、ごとし。
先生、自分の講義のつまらなさ、謝りつつ、要点だけ話して、お仕舞い。


ところがこの先生、学生の人気は、仲仲(なかなか)じゃ。
実習のマイクで、紹介されると、学生、ウオーッと、歓声を上げる。
冷やかしでは無い、本気でだ。

これがワシには、分らんのね? 学生に聞いても、分らん。
ヤッパ、人気が有る、ちゅう事、なんでしょうなあー。
変な人気、では、あったが。



 *      *      * 



次の段、埼玉県警、機動捜査隊じゃあ、無かった。 鑑識課の特別講義じゃ。
いわゆる法医学、歯医者がすると、法歯学。

女子(おなご)の死体が、出て来るんだぜ。 
嬉しくて、嬉しくて、体が震えて来たりして。




*     *     *


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