* 自分史 製造業系 ( 五十歳までのワシ。 鉄工所三十二年間の想ひ出 ) *
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第 6 章 * 2 の 1 / 7 石川県警・小松警察署の私兵化問題 < 白江俊雄夫妻との決裂談判 > * 世の中には色んな談判が有るものだ。 異色と言う点ではこの談判も、一見に値すと思う。 白江俊雄・ユキ夫妻が、手を変え品を変え、 ワシを説き伏せようとした論拠とは、 この世の中、正しい者が勝つのではない、 力の有る者が勝つのだと言う 体験談を混えての、おさとしだった。 力の強い者が正しいと言う、白江事務長夫妻の論理は、 正しいと言えるか? 確かに現実世界では、時として力が正義だったりする。 だけどね、面と向かいて、 だからお前さんの負けだと言われては立つ瀬が無い。 世の中お仕舞いだ。 その時のワシ、殺されても、そんな論理に負けたくなかった。 大体、そんな手間暇掛けずに勝てる道の有った事、 前段に書いた通りだ。 事務長一家の作戦負けと言える。 ワシを見損なって呉れるな。 ではこの談判の中身、以下に再現す。 * * * |
< この世は力の強い方が勝つ? > 白江俊雄事務長は諭す口調で、ワシに、こう言うた。 なあ久治良君、君はまだ若い。 世の中を知らない。 この世の中は 君の考える様な、甘い物では無い。 この世の中とはナ。 力の有る者が勝つ。 力の強い者が勝つ。 それ が、この世の中なのだ。 仮にだ。 百歩譲って、お兄ちゃんが正しいとしよう。 でもな。 どう見てもだ。 誰が見ても、力の有る無しでは勝負に成ら 無い。 わし等の勝ちだ。 社会的な力では、わし等の勝ちだ。 わし等の力の方が断トツに強い。 だから、な、久治良君。 悪い様には絶対にしない。 悪い様には絶対 にしないから、 この勝負、わし等の勝ちにして呉れんか? わし等は、こうやって百歩 譲って言うとるのだ。 この通りだ。 頭まで下げたのだ。 この問題、わし等の勝ちにして呉 れんか? ***************************************************************** かくの如く、談判の初めから終りまで事務長夫妻の説得法は同じだった。 この世の中とは、力である。 力の強い者が正義だ。 力を多く持った 方が勝つ。 お兄ちゃん( ワシの事である )と、わし等を比較すれば、考えるまで も無い。 歴々然として、わし等の方が社会的に強い。 よってこの勝負、わし等の勝ちなのに、それを認め様としないお兄ちゃ んは、一体、どう言う了見をしとるのか? 彼らは手を変え品を変え、この論理にて説得しようとして、遂に出来な かった。 これがこの談判だったと、要約出来る。 **************************************************************** < 体験談からの説諭も失敗す > ワシが、何を言ってやがるんでえと、不貞腐れ顔したので、白江夫妻は 作戦を変えた。 事務長夫人・白江ユキ氏が、こう切り出した。 久治良君、前にも話し たでしょ。 ウチのお父さん、若い頃、清水商店で奉公してたのよ。 お父さんは 誠心誠意、お店の為に働いたのに、 先々代のお祖母さん、お父さんの事、いじめていじめて、いじめ抜きま した。 ( ユキ氏、目頭を拭う。) お父さんは、遂に耐えかねて、お店を飛び出しました。 非は、あのお 祖母さんです。 あそこのお祖母さんは、トンでも無い悪ババアです。 お父さんに非は 有りません。 なのに、お父さんを 虐めて虐めて虐め抜きました。 でもね久治良君、力は清水商店のお祖母さんの方が( その頃は )強かっ たのです。 お父さんはまだ、十代の半ばでした。 結局、世間の力の差で、良いも 悪いも無く、お父さんが悪者にされました。 世の中とは、こんなものなのです。 世の中とは、こんなものなのです。 久治良君、解( わか )った? * * * これに対し、ワシ、反論した。 そう言う問題は、双方の言い分を聞か にゃ、判断出来んでしょ。 白江さんの言い分は、なるほど、聞きました。 今度、清水側の言い分、 聞いて来ますよ。 清水側にも当然、言い分、有るでしょ。 双方の言い分を聞いてから、ワシの態度を決めます。 白江夫妻は、まあ、何と言う分らず屋なんでしょの顔で、ワシを見たが、 そんな視線に、めげるワシでも無いから、 平気で嘯( うそぶ )いておった。 * * * 上に出て来た清水商店とは、この本の 第四章 に有る、同級生賛歌の、 清水道明君とこ、である。 同級生だった清水君は、清水商店の三代目だ。 初代の創業社長は、 清水君のお祖母さんだ。 材木の投機にて、短期間に巨富を得られ、息子の代には建築と建築資材 の分野で伸張し、押しも押されもせぬ、 小松市の名家のひとつに数えられる、資産家と成られた。 ワシも、 こんな談判の席に同級生の名が出るとは思わなかった。 * * * 白江ユキ氏、ワシが横向いて同意せぬから、これならどうだと言わぬば かりに、今度は、自分の体験談を繰り出して来た。 これはかなり、珍妙な問答だった。 普通、女として許す事の出来ない問題と来れば、手篭めにされたとか、 弄ばれたとかを連想するのが普通である。 それで無しに、女として許す事の出来ない仕打ちとは、一体何ですかい? この疑問、今だに解明されて無い。 ご存知の方、ご教示願う。 この談判のかなり前である。 ワシは白江家にて、家族と一緒にテレビ ドラマを見てた。 白江ユキ氏、ヒロインの生き方を批判して言うのだった。 最近の娘と 来た日にゃ、結婚前に、何をしてたか判らない世の中ですよ。 わたし等の頃は、誰だって処女でお嫁に行ったものです。 こんなドラ マ見てると、気が変に成ります。 と言うて、自身は白江俊雄氏の元へ、処女で越し入れした事を、我らの 前に表明したのである。 こう言う前提が有りながら、この事務長夫人、白江ユキ氏。 ワシに、 以下の如く言うのである。 * * * 白江ユキ氏は能登の生まれである。 学校を出るや小松市内の T なる 家に、女中奉公した。 T 家は、織物産業で財を成した家である。 市内・東町に、お屋敷が 在った。 そこの娘に、ワシの同級生が居る。 白江ユキ氏は言うた。 わたし、そこで、女として許す事の出来ない目 に会いました。 わたし、耐え兼ねて、金沢の先生の宅へ逃げました。 そしたら、どう 成ったと思います? 先生は、わたしを、奉公先へ連れ戻したのです。 そして、ですよ。 奉公先を勝手に逃げ出すとは、何事であるかと言うて、 わたしの頭を畳に押し付けて、謝れ謝れと、わたしを叱るのです。 悪 いのは T 家の主人じゃありませんかッ! わたしの何処が悪いのです。 主人に酷い事されて、耐え兼ねて逃げた のに、わたしに謝れですよ。 わたしの何処が悪いのですか? わたしは悔しくて悔しくて、おでこを畳にこすりつけられながら、わあ わあと泣きました。 * * * ねえ久治良君、判るでしょ? こんな風にね、世の中とは、正しいとか 間違っているとかでは無いのです。 力の有る者が正義なんです。 どう考えても、わたしの方が正しいの に、なぜわたしが謝らねば、ならないのですか? 悪いのは T 家の主人ですよ。 なのに、わたしが悪者にされました。 謝れ謝れと、おでこが擦り切れて血がにじむまで折檻されました。 だからわたしは、人間、力が無いと、こんな目に会うのだ。 力を付け なきゃ駄目だと、その時、心底思いました。 * * * 力が正義なんです。 力さえ有れば、人殺ししても助けて貰えるのです。 力が無ければ、どんなに正しくても負けて仕舞うのだと、 わたしは実体験で知りました。 ねえ久治良君、わたしの言ってる事、 判るでしょ? もうそろそろ判って呉れないと、駄目よ。 * * * これに対し、ワシは聞いた。 お母さんは処女でお嫁に来たんでしょ? ユキ氏、返事していわく。 そうです、処女でお父さんの所へ来ました。 ワシは、さらに聞いた。 だったら、その、女として許せない事って、 一体、何ですか? するとユキ氏、ワシを諭( さと )す調子で言うのだった。 それは女として 許せない事ですッ! ワシ、ちょっと頭を掻いた。 いえね、その女として許せない事が、何 なのかと聞いてるんです。 するとユキ氏、こんな簡単な事も判らぬのかと言わんばかり、自信タッ プリに言うのだった。 それはね女として 許せない事です! ワシ、ちょっとじれた。 いえね、お嫁に来た時は処女だったんでしょ? 白江ユキ氏、そうです。 だったらその、女として許せない事とは、一体何なのか? それを聞い てるのです。 するとユキ氏、またもや自信たっぷりに言うのだった。 それは女として 許せない事ですッ! * * * 何、言ってやがんでえ。 質問の意味が判らんのか? それともこの女 ワシを、おちょくっとるのか? ワシ、へっ、と言うて横向いて仕舞った。 この馬鹿気た問答から、身 を引いた。 ところが ユキ氏、その態度をワシの敗北と見て、勝ち誇った如く、言う のだった。 わたしは T 家で、女として許せない事されましたが、お父さんは許し て呉れました。 そして、そして、わたしは勝ちました。 勝ったのですッ! 今じゃ T 家の子供達、実の親より、わたしを頼ってます。 T 家は、 わたしが助けてやらないと、何も出来ない家に成ったのです。 わたしは勝ちました。 わたしは勝ちました。 わたしは勝ちましたと、 激しく言いつつ、涙ぐむのだった。 やがて顔を上げると、こぶしを握り、断固たる調子で言うのだった。 力です。 力なんです。 力が正義ですッ! 正義は力ですッ! 力が正義なんですッ! 狂信者の如くだった。 興奮は冷め遣らず、力の有る者が勝つのです。 力の強い者が勝つのですを、幾度も幾度も繰り返すのだった。 わたしには力が有りますッ! わたしには力が有りますッ! 私には力が有りますッ! 私には力が有りますッ! 私には力が有りますッ! 私には力が有りますッ! と、涙ながらに吼( ほ )えるのだった。 * * * 白江ユキ氏は、なおも続けた。 若い頃、わたしはこの身で、この体で、涙を流し、酷い目に会い、それ を学びました。 力です、力なんです。 世の中は、力です。 力が正義なんですッ! 涙と共に搾り出された我と我が言葉に、ユキ氏は自ら感激し、全身を煮 えたぎらせて言うのだった。 仲々の迫力だった。 * * * 夫の白江俊雄事務長、これを引き取り、ワシを諭した。 なあ久治良君、 これだけ言うたのだ。 もうそろそろ、判って呉れても良い頃だぞ。 お兄ちゃんにも言い分は 有るだろ。 でもな、絶対に、悪い様にはしないから。 この問題、わし等に任せて呉れぬか? 必ず良い様にする。 なっ、久治良君ッ! 誰が見ても社会的な力では、わし等の方が上だ。 お兄ちゃんは、まだ 若い。 世の中を判ってない。 世の中が、どんな力で動いてるか、知らない。 なっ、なっ、久治良君。 君にも言い分は有るだろが、ここは、ここは わし等に勝ちを譲るのが、世間の常識だぞ。 こうして、頭まで下げてるのだ。 わし等に任せて呉れぬか? な、な、 久治良君ッ! これに対してワシ、にべも無くお断り申し上げた。 事務長夫妻、ため 息を付き、説得がまだ足りぬとでも思ったのか、 しばらくの沈黙後、さらに次の様な説話を始めるのだった。 * * * お兄ちゃんは、A 病院を知っとるか? 知っとるか? ・ ・ ・ だとう? 小松に住む人間なれば治療を 受けずとも、A 病院の名前くらい、誰でも知っとるわ。 白江事務長は言うのだった。 あそこの息子はナ、お兄ちゃんのひとつ上だ。 小学校から高校まで お兄ちゃんの一年先輩だから、顔、知っとるかも知れぬ。 その息子がな、小松高校へ入学した年だ。 父親の病院へ、看護婦見習 いで、同い年の女の子が来た。 その子と息子が出来たのだ。 高校在学中、ずう 〜 ッ と関係してたそうだ。 息子が医学部に合格し た時、女の子の母親が病院に来た。 そしてな、父親の医者に、ここらで結納くらい、して貰えないかと、言 うたのだ。 父親の医者、ビックリ。 当然、息子を呼んで聞くわな。 息子、只の 遊び。 結婚だなんて笑わせないで呉れ。 それ聞いた母親、激怒。 怒り狂い手が付けられん。 医者、わしに助 けを求めて来た。 なあ、お兄ちゃん。 これ、どっちが悪いと思う? 悪いのは医者の息 子だろ? 違うか? 誰がどう見ても、医者の息子が悪いだろ。 * * * 考えるまでも無い。 A 医の息子が悪いのだ。 素人娘を遊び相手にし て、責任を取らぬ。 女の子は本気だったから、怒るの当たり前。 それで文句言われたら、わしに、助けて呉れ ・ ・ だろ。 誰が、 どう見ても、悪いのは医者の息子だ。 だけどナ。 医者には力が有る。 財産も有る。 社会的な力が当然有 る。 娘の母親なんぞ、ただの貧乏人に過ぎぬ。 正しいのは娘の側である。 なのに娘が悪者にされた。 わしは医者に 頼まれて、母親を脅し付けたのだ。 往生際( おうじょうぎわ )の悪い女だったよ。 仕様がないから、わ しも最後は脅迫めいた手を使い、黙らせた。 母親は身もだえして悔しがってた。 悔しかったと思う。 しかしだ。 母親には力が無い。 諦めて貰うより仕方が無い。 こんな風にな、お兄ちゃん。 これが世の中なのだ。 お兄ちゃんも悔 しいのは判る。 悔しいのは判るが、世の中とは、こんな物なのだ。 判って呉れ。 いや、判らなければいかん。 わし等には、力があるの だ。 どんな手でも使える。 言って置くが、わし等にそれをさせるなよ。 * * * な、お兄ちゃん。 これだけ言っても判らんか? A 医の息子も今じゃ、 そんな事、有りましたかと言う顔で、医者しとる。 責任を取って無い。 だけどナ、医者には力が有るから、どうにも成ら んのだ。 どうにも成らずに力の有る者の勝つのが、この世の中なのだッ! それが世の中だッ! これだけ言うても、まだ判らぬかッ! * * * なっ、お兄ちゃん。 これだけ言うても判らんか? まだ判らんか? まだ判らんかと聞いておるのだッ! 判ったのかッ! 判らないのかッ! 返事しろッ! と吼えつつ、白江俊雄事務長。 見れば座布団の上。 何時の間にか片 方の膝を立て、 身体の向こう側の手は、こぶしを作り、構えてるよな雰囲気。 さなが ら、ワシに一発、喰らわせんとする形勢だ。 それ見たワシ、何故かは知らねども、心底から怒り、こみ上げて来た。 もし事務長が攻撃すれば、死力を尽くして反撃せんと、 全身で身構えた。 ワシが、ひるまなかったものだから白江事務長、大きなため息を付き、 座布団に、大袈裟に、尻を落として見せ、 情けない、情けない。 実に情けない。 これだけ言うても判って呉れ んのかと、嘆くのだった。 * * * それにしても驚いた。 A 医の息子に、そんな過去が有るとは知らな かった。 一年先輩なれど、芦城小・中学校から小松高校までワシと同じである と言われても、顔が出て来ない。 会えば、ああこの人だったかと判るかも知れぬが。 後の話なれど、この息子医師、父医師の亡き後、A 病院の二代目院長 に就任して、今や押しも押されもせぬ、小松の名士である。 ワシはこの話、事務長のお子さんからも聞いた。 順序では、そっちが 早かった。 だから事務長には、重ねて聞いた事に成る。 特段の感慨も無かったが、 白江事務長が、この話にかこつけて、 ワシを打たんとしたから、しつこく記憶するのだ。 事務長にすれば、 言う事を聞かぬワシが憎かったであろう。 でもな、だから言うて殴って良い理由にはならぬぞ。 ワシがにらみ返 すや、こぶしを引っ込めるに至っては、何をか言わんやである。 * * * 事務長の殴るに付いては、裏が有る。 やがて登場する 水島氏だ。 水島氏こそは、この問題のかなめだった。 裁判のきっかけであると同時に、有力な証拠物件をワシに呉れた人物で もある。 白江側にすれば、裁判に出られては困る人物である。 この水島氏を事務長は、嘘を言うたと難癖を付けて、一発、殴っておる。 白江俊雄事務長が水島氏を殴ったのである。 傷が付く程の打撃で、顔面を殴ったそうである。 ワシは水島氏から直 接、聞いておる。 小松警察署刑事課では、白江側は、水島氏に、脅迫されたと告発しとる。 どっちがどっちを脅迫したのか、吟味を求めたい。 ぶん殴った相手に脅迫されたも無かろうに。 * * * 次ページでは、この水島が、如何なる人物かを書く。 白江事務長夫妻 との談判は、まだ続いておるのだ。 この段は、継続中である。 白江事務長が、これだけ言うても判らんの かと、大嘆息したまでを、このページに書いた。 そのつづきを、次ページに書く。 |
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