*  自分史 製造業系 ( 五十歳までのワシ。 鉄工所三十二年間の想ひ出 )  *   < kujila-books ホームへ帰る >

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第 4 章  *  ワシの同級生賛歌

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< 宮本一正君は大学院の奨学金組だった >





東大や京大の大学院の理系コースの上位四名には、
日本国政府から、返済不要の奨学金が出る。
宮本一正君、京大理数科にて表題の如く、
奨学金 貰らっとった。( 貰ってました。)

何番で貰ってたかまでは聞かなかったが、そんなん、
どうでも良ろし。じゃがだ、
理数科言うのは、何を理数化するんじゃろ?
ワシの理解水準、この程度。
心もと無い限りではあるが、
まあ、ここまで来たのだ、行ってみよう。




*     *     *





< 宮本一正君のご両親は、床屋なり。>


実はね、ワシにとっての青春は、宮本君との夜明けまでの語らいなのだ。
しかも一回だけ。

こんなのが青春の思い出の全てだなんて、寂しくはないか? ワシの青春
時代は、それほどに寂しいのだ。



ワシの青春時代とは、父の鉄工所での、仕事仕事仕事に明け暮れる日々だ
った。 文字通り、油と、ほこりと、汗まみれ、重労働の記憶しか無い。

唯一の救いは、ワシが、社長の息子だった事。 これ馬鹿に成らない救い
なのだ。



ワシがもし、従業員として、あんなにも過酷な仕事、させられたのなら、
精神状態、絶対に、おかしく成ってる。

健康も害してたろう。 単に、社長の息子だって事が、そのストレスを、
無効にしたのだ。 人間の心って奇怪ではないか?



当時、日本は、全学連運動の、爆発時代。 デモデモデモの記事しか、
新聞に載って無い時代。 宮本君、騒音を避け、田舎に疎開してた。

そこへワシが、訪ねたのさ。 仕事の終了後の時間。 夜の八時だったか
九時だったか。 とにかく行ったのさ。



  *       *       *



宮本君の実家は、根上町( ねあがりまち )の、駅に近い線路脇である。
ようッ、と言うて座ったのは、その床屋さんの、順番待ちの客の座る、

長椅子だった。

青春時代、ど真ん中だ。 無遠慮な大声で、よしなし事ども、語り合った
のさ。 あの爽快さ、自由な気分。 言いたい事を、言い放題。



あの夜の想い出が、ワシの青春時代の全てだなんて、侘( わび )しくも
有れば、懐かしくも有る。

さてだ、夢中になって話し込んで、だな。 夜も白々と明けて来たので、
ああ、楽しかった。 また来らあ、時計は朝の四時だった。



帰ろうとして、だな。 フト横を見るとだ。 人間の頭が二個、並んでる
じゃねえか。

おりゃりゃ? あれは何じゃと、よくよく見れば、宮本君のご両親の頭じゃ、
ないか。



床屋の仕事場の横の部屋が、居間兼、寝室だったのだ。 夏だったので
ガラス戸は外してあり、白いレースのカーテンが、

涼し気に、そよいでおった。 だけどもワシらから、たった三メートルだ
ぜ。



まさか、そんなに近くで寝て居られたなんて、夢にも思わんから、無遠慮に
大声出しとったので、オヘッ、失礼ッ、と成ってしまったのだ。

あれにゃ、本当にビックリした。 ご両親、さぞや、五月蝿かったであり
ましょう。



  *       *       *



不思議なのは、ここだ。 同級生の所へ行って、長話しする。 親の態度
は、きっぱりと、二種類に分類出来る。

この宮本一正君のご両親みたい、ぜんぜん放ったらかし。 干渉がましい
事、一切無しの親と、その反対に、



夜の十時か、十一時頃。 部屋の外に来られてナ。 ○○ちゃん、もう遅
いから、又にして貰ったらと、声を掛けに来る親だ。

ああスミマセン、もう帰ります。 遅く成りました。 失礼しました。
言うて帰るんじゃが、



不思議なのは、ここからじゃ。 あれから四十年。 ご両親、無干渉の
同級生は、

今だに懐かしい。 こんな同級生賛歌に書いたりする。 一方だ。 もう
遅いから、又になさったら?  の組は、



記憶にさえ残らない。 この極端な差異は、何処から来るのだろ? 面白
い現象ではある。



  *       *       *



大学受験の宮本君、進路指導の先生が、言うたそうナ。 君の成績では
京大の理数、ちょっと無理だ。 でもね、

君には根性が有る。 現役での合格は無理だが、一浪したら合格出来る。
京大行きたいんなら、一浪すれば行ける。



宮本一正君、分りましたと返事。 そして、進路指導の予言通り、一浪し
て、京大理数工学科へ入った。

ただし宮本君は奥ゆかしいから、それを言わせると、こう成る。



  *       *       *



予備校は、何気なく京都にしたんだが、あれは成功だった。 数学に、
良い先生が居てね。

あの先生の指導を受けてたら、数学が、別物に見えて来た。 ボクが京大に
合格出来たのは、あの先生の数学のお陰だよ。



  *       *       *



良いセリフじゃ、ありませんか。 宮本君、大学、同大学院では上位四番
に入り、国家から奨学金を支給されてた事、すでに書いた。

大学院は修士課程まで、だったらしい。 何処へ行ったか? 三菱重工業
広島へ行ったそうな。



そうな、と言うのは宮本君、自衛隊の潜水艦のコンピューター・ソフト、
なんかを開発するチームへ、配属されたからだ。

よって、小松高校の卒業者名簿の彼のとこ、白紙。 何処に住んでるか、
一切、軍事機密。



と書いて、困った。 自衛隊、軍隊じゃないからね。 軍事機密とは、
本来、書けないのだ。

自衛隊機密か? 国防機密と書くか? とにかく、何処に住んでるか
分からねえんだよ。



宮本君ちのお父さん、散髪屋だろ。 行った事ある。 お父さん、村夫子
然とされた、気さくな方でね。

かずまさ( 一正 )が、何処に住んでるんだか、親のわしにも分かんねえ
んだと、笑って居られた。



手紙、会社へ出す。 返事、ちゃんと来るから、届いてはいたそうな。
ま、こんな話題、暢気に書いてて良いものか、検討ものだがね。

日本なりゃこそです。 米・英・旧ソ・中国なら宮本君、一生、日陰暮ら
し、させられるでしょう。 一種の飼い殺しです。



  *       *       *



高校時代の宮本君、目立たぬ場所で、地道に実力を付けてるタイプだった。
読書も、相当なレベルだった。

ワシみたい、脈絡無しの手当たり次第ではなく、かなり系統立って読んで
た。 おしゃべりすると、読んだ本の話題が出たりして判る。



おいっ君、そんなレベルの本、読んでるのか? と驚いた記憶が残る。
宮本君と話してると、

こりゃ油断出来ない、こっちも読んどかないと、恥じを掻く。 と、しば
しば、思い知らされた。




こんな風に、宮本君は秘かに努力するタイプだから、彼と居ると、無言の
内に啓発されたものだ。

ところで彼の理工系には、ワシにも少し責任がある。 あの当時、宮本君
を見てると、こいつは理工系だなあ 〜 と思えて仕方無い。

それでワシ、つい口に出して勧めた。



  *       *       *



宮本君、五十四歳に三菱重工を退社して、現在は 高崎健康福祉大学の、
健康福祉学部の、医療情報学科の教授しとるそうな。

写真付きで紹介されとるから、ヒマな時にでも見て下さい。 粋( いき )
なヒゲなんか 生( は )やしてよ。



夜は、ジャズ喫茶のマスターでも、してんのかよ? って言いたく成る
よな 粋なヒゲではないか?

趣味が何だと? 温泉めぐり? ざる碁? 硬式テニスは止めとけ。 軽
い登山は、大いにやりたまえ。

山登りの後の温泉、堪んねえからな。



宮本君の、ざる碁には、油断してならない。 自分のは ざる碁だ、へぼ
将棋だと言っとる連中の中に、

とんでもねえ豪腕が居るから油断は禁物だ。 宮本君は、潜水艦のソフトを
書いてたのだ。

油断して手加減なんかしてると、魚雷で吹っ飛ばされるぞ。



  *       *       *



ところでワシ、テニス、大嫌い。 ちょうど、中学校へ入学した時だ。
前年がミッチーの結婚式でよ。

次の年のテニス部、部員、な、なんと百名。 二年と三年の部員が、合計
して五名なのによ。  何だよ、あれは?



ミッチーとは、正田美智子様の事だ。 平成天皇陛下が、まだ皇太子殿下の
頃。 テニスコートの恋、なんちゃってね。

降って沸いたよなテニスブームだ。 二年と三年の部員が五名しか居ない
クラブに、一年の新入部員が百名とは、これ如何( いか )にッ

だよ。




爾来、テニスしとる奴ら見ると、女たらしめッ  と、心で罵っ
( ののしっ )てしまう。

宮本一正教授殿、硬式テニスは止めた方が良い。 軟式テニスは、もっと
良くない。 テニスなんて女たらしのスポーツだぜ。

何か、下品な下心でも有って、テニス、してんのか?



  *       *       *



爾来は( じらい )って読む。 意味は以来と同じだよ。 入力さん、あ
んた 一ツ橋大卒でしょ。 語彙が乏しいよッ

爾来が読めず、意味も判らない。 如何に、も読めない。 これを如何に
せんだよ。 まったく。



  *       *       *



最後、高崎健康福祉大学で 宮本教授の近くに居られる方々に申し上げる。
宮本君は、ワシみたいに大騒ぎはせんが( しないが )、

中々に教訓的な生き方をしとる先生ではある。 本人、教訓なんて、考え
た事も無いのが、いよいよ教訓的なのじゃ。



この段を読まれて判るように、宮本一正君とワシの接触なんて、極わずか
に過ぎぬ。

なのに、宮本君の印象、年々に鮮明に、成り行く。 学問は、必ず人間の
学問への姿勢に左右される。



学問が大成するには、人生への哲学が、必須の土台に成るって事を、宮本
教授から学んで呉れ。

実はワシなんかも、彼から秘かに盗んだものでもって、学びを励行しとる
のだ。 前段の勝山君を、モーツアルトに例えると、

宮本一正君は、さしずめ、ベートーベンだな。




作曲家志望の若者は、作曲をベートーベンに学ぶ。 良い先生に会えたと
感謝しつつ、

盗める物は今の内に、全部、盗んでおいて呉れ。
以上だ。



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さて次段では T・K 君を扱う。 内容に鑑みて、名前は出さない。


T・K 君は、なかなかに特異的な人生を送った。 ワシはこれまでに、
金持ちの女と結婚して、自分も金持ちに成りたいと公言した者、

四名に会ったが、この中で T・K 君こそは、文字通りに、それを実行
実現した。



彼の行き方は、好きと嫌いに二分される生き方であろう。 諸君は、
どちらに判断するだろう?

では、行ってみる。






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