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く じらの 雑誌 * 食い物 裏話 第三話

< 養殖うなぎ と 天然うなぎ。 どっちが美味しいの? >



< 養殖うなぎに、軍配だって? >


驚いたぜ。 東京の連中は、養殖の方が、美味しいんだって。 みんなで寄って
たかって、ワシを責めたのだ。

天然うなぎは、しつこくて嫌いです! 身が何か、ゴムみたいで、噛んでも噛ん
でも、こなれて呉れなかったわ!



ある方。 旅行で四国。 四万十川の清流下り。 お昼にうな重が出たのですよ。
レストランの方が、これは前の川で獲れた、天然物のうなぎ、なんですよ!

自慢気に言われたけど。 わたしは美味しくなかったです。 東京で頂く養殖
うなぎの方が、ずーっと美味しいですわよ!


 *       *       *


わたし、歯が悪いでしょ。 あんな、ごわごわしてる天然うなぎ。 噛めないん
ですよ。 皮なんて、チューインガムみたい。 最後、出してしまったわ。

別の方。 天然は油が乗ってるって、お店の方が、おっしゃるのですけど。 年
取るとね。 さらっとしてる、東京のうなぎで、充分です。


張り切って行ったけど、天然のうなぎって、あんなものか! って感じ。 もう
一回、食べたいとは、思いませんよ、ねーっ!

ですって。


 *       *       *


ワシ、みんなの感想に、腰を抜かしました。 当然、当然。 天然うなぎでなきゃ
あ。 と、衆議一決するとばかり、思ってたので。

ワシの父。 釣りきち、だった。 うなぎ。 しょっちゅう釣って来た。 釣り
に行く日は、子供だったワシに、言うのだ。


おいっ、いるか! ザリガニ。 獲(と)っといて呉れ! 獲っといて呉れ。
は、獲っておいて呉れ。 の意。 昭和三十年頃だぜ。 1955年だ。

あの頃の日本。 田んぼにザリガニ。 わんさか居た。 あれ、アメリカが原産。
確か、蝦蟇(がま)がえるの餌にする積りで、移殖した筈だ。

当時の がま蛙(がえる)。 貴重な輸出品。 アメリカ人が、美味しい。 美味
しい。 言うて、珍重したそうな。 ザリガニは、その餌の積り。



それが逃げ出して、あっと言う間に、全国へ。 あれ、農家の方が、困るのね。
穴を掘る。 真(ま)ったいら(平ら)の平野なら、我慢できる。

日本の田んぼ。 傾斜してるだろ。 隣の田んぼと水面が、十センチ。 違って
見ろ。 ザリガニにトンネル掘られて、翌朝は水が抜けてる。


お米が出来ないよ。 ザリガニは、頭痛の種だった。 その上、田植えしたばか
りの早苗。 ハサミで、ちょん切ったりするしね。

見つけ次第。 地面に叩き付けて、退治する。 そんな代物だったのさ。 ワシ
トンボ網、持って。 近所の田んぼ。 三十分で、ザリガニ。 バケツ、一杯。


 *       *       *


するめイカを、小さく裂いて、入れとく。 餌が無いと、あいつら。 友食いを
始めるから。

父。 仕事を終えて、晩飯食うと、自転車で川だ。 ザリガニが餌。 葦(よし)
の茂みに、仕掛けを入れる。 待つこと、二時間。 ぐっぐーっと竿がしなる。


うなぎは、尻尾を振るらしい。 見た事ないんで、本当は判らんが、その引き。
如何にも尻尾を振ってるような、引き方なんだ。

コン、コン、コンと引く。 釣れるのは、せいぜい六十センチ足らずの、小さな
うなぎ。 それでも天然うなぎ。



父が名人だったので、うなぎの蒲焼(かばやき)。 家(うち)では、珍しくな
かった。 あれ、料理すんの、大変なんだぜ。

養殖のうなぎ。 アルバイトの学生でも、料理、出来ちゃう。 ザルの中のうな
ぎ。 学生が、つかむだろ。 養殖うなぎ。 キュウ。 だもんねえ。


気絶しちゃうんよ。 知ってた? 首の所を、ぎゅっとつかむと、伸びちゃうん
だよ。 だから、でれーっと垂れて、抵抗もせず。 大人しいものだ。

これが天然うなぎ、だと、ひと悶着だ。 首をつかんだ、瞬間だよ。 物凄い力
で、手にギリギリと巻き付く。 そして、つかまれた首を、ヌーッと抜き去る。


その力たるや。 プロレスラーでも、負ける程だ。 だから、まな板にうなぎの
頭を、固定するなんて。 ひと仕事だ。

目打ちで打ち付けるんだが、ギリギリに巻き付いて、三枚に下(お)ろす。 ど
ころじゃあ、ないんだ。



初心の板前なんか、天然物のうなぎ。 ボクまだ、料理、出来ません! 言うん
だぜ。 だから、ワシの父なんかも、時々、うなぎを逃がした。

料理の最中だ。 ちょっとの油断。 うなぎが、矢の様に逃げるんだよ。 もう
早いの何のって。 子供のワシが、全力疾走するより早い。


下水を、矢の様に逃げてしまう。 逃がしたりすると父。 照れ笑い浮かべて、
寂しそうに煙草。 子供のワシ。 笑ったね。

それが養殖は、どうだ? 逃げ出す? とんでもねえ。 まな板の上で、気絶し
て、伸びてるよ。 ありゃあ、もう。 救急車ですよ。


アルバイトの学生が、ですよ。 小さなナイフで、サッ、サッと。 三枚に捌
(さば)いて、はい出来ました。 渡して呉れらあな。

あれを見て、ワシ。 開いた口が、塞(ふさ)がらなかった。 なんちゅう、う
なぎじゃあ? 気味悪かった。


 *       *       *


卑しくも、うなぎである。 あれじゃあ、土用のうなぎには、成れないぜ。 我
らの精を、付ける前に。 てめえらの精が、肝要だ。

その身。 グナグナして、(ワシは)気味悪い。 なのに、皆さんは、あれが
良いと、賞賛なさる。


こりゃ、好み。 ですからね。 議論しても始まらない。 養殖の はまち なら。
全身が、トロ、ですよ。

あれが堪らん! 言われる方。 多いんです。 養殖の山女(やまめ)。 鮎
(あゆ)も同じ。 背中が盛り上がってるんです。


料理して、お皿に盛って、食卓に出すと。 背中。 脂肪です。 油なんですよ。
筋肉じゃ、ねえんだ。

ワシみたい。 野生のいわな。 渓流の山女(やまめ)。 料理して喰った人間。
箸(はし)が出ないよ。 なんだ、このいわな? メタボの山女か?

呆(あき)れてしまうね。 皆様は、如何ですか?



マグロも今や、養殖です。 そうそう、先日はマムシの養殖場へ、行って参りま
した。 同行の方々。 赤マムシの姿焼き。 三匹も平らげて、

意気軒昂! でした。 ワシ、一匹を持て余しました。 何でか? と言い
ますと。 本物の、天然のマムシ。 ワシ、食べた事、あるんです。


マムシより、普通のニシキヘビなんかの方が、ポピュラーでしたね。 とにかく
ヘビです。

マムシは、頭を切り落としますが。 ニシキの方は、上あごと、下あごをつかん
で、やっとばかりに、引き裂きます。


すると、身が二つになると思いきや。 さに有らずして、あのウロコの皮が、剥
ぎ取られるんです。 結構、残酷物語です。

皮を剥ぐと、白い身が出ます。 それを、ぶつ切りにして、串なんかに刺して、
焼いて食べるのです。



天然のマムシ。 一匹、全部。 頂いたりすると、鼻血が出ます。 身体の中に
熱度の有る液体を、注入されたような。 強い精気が、侵入します。

それ位。 強いのです。


 *       *       *


養殖のマムシなんて、ありゃあ、マムシの形をした、別の物ですよ。 何匹
食べても、どうって事、ありませんし。

気味悪くてワシ。 半分、残しちゃいました。 でも皆様は、うまい、うまい、
と、ご機嫌でした。


ワシの味覚が、間違ってるんでしょうか? この頃、自信を無くしつつ、ありま
す。

去年の夏でした。 東北の明峰。 飯豊山(いいでさん)へ行って来ました。
麓(ふもと)の農家に泊まりました。


そしたら、です。 ご主人が山へ行かれて、天然の舞茸(まいたけ)採って来ら
れました。 天然の舞茸。 目茶美味(めちゃうま)ですね。 こくが違う。

皆さん方にも食べさせたい位です。 舞茸なら、スーパーで年中売ってますが、
味が全然ちがうんですよ。



あんな舞茸を、頂いてる方は、スーパーの舞茸。 食べれないでしょうね。 ワ
シのうなぎ、みたいなものですよ。


 *       *       *


< 養殖って何だ? 我らも養殖人間かな? >


魚釣りに、ミミズを使う機会が減りました。 あれを摘んで、針に刺すのが嫌なん
です。 それに、ミミズなんて、どこに居るんですか?

ごみ溜めが、無くなりました。 仕方が無い。 釣り道具屋さんです。 プラス
チックのケースです。


さて湖へ来て、竿を出して、釣り針にミミズです。 女の子は、
みなさん。 お願いします! ですから、ミミズ付けに、忙しかったです。

そのミミズですよ。 しっかり這入って三百円。 は、良いのです。 問題は
肝心のミミズです。 



引っ張ると、プツン! 切れちまう。 最初、驚きました。 ためしに、ミ
ミズの頭と尻尾を摘んで、引っ張ると、簡単にプツン! です。

野生のミミズがこんなだったら、ミミズは絶滅します。 何と言う、もろさ。
どうしたら、こんな体質に成るのでしょう?


 *       *       *


話は飛びますが、漢方の薬草です。 ワシ、生まれが石川県の小松です。 あそこ
に鞍掛山(く らかけやま)なる、名山が在ります。

ワシ、これまでに280回ばかり、登りました。 このくらい登ってますと、普通の
登山道なんて、飽きてしまう。


道なき道。 谷川を登る。 尾根の裏から登る。 一般コースの逆を登る。 てな
事をしてますと、いろんなものに、出会います。

うさぎ、へび、たぬき、は良いのですが、 熊は困りますね。 面白かったのは薬
草取りですよ。



サラリーマン。 休日の趣味。 月に七十万ですって! 芸は身を助く。 そのも
のですな。 その方が言うのですよ。

畑で作った薬草なんて、ぜんぜん利かない。 野生の天然物じゃないと、意味ない
です。

煎じて飲み比べれば、一目瞭然です。 しろうとでも、判ります。


 *       *       *


味がまったく違う。 畑で作った薬草なんて、薄くて弱い味しか、出ません。
山に入って、天然の精気の有る薬草を、取るんです。

京都の問屋が、良い値段で買って呉れます。 本物の分るお店で、本物の見分けの
付く客に、買ってもらうんです。


効能が違いますよ。 飲めば分ります。 本物と偽物の、飲み比べが大切です。
性能に、格段の差が有ります。

と言うような、お話し。 山の中で、聞かせて頂きました。 皆様。 参考に成り
ましたでしょうか?


たとえ参考に成っても、本物は高いですからね。 財布と相談の上。 次の行動に
移ると、いたしましょうぞ!


                              <第三話の 完>




*      *      *



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