* 裏本 五十歳、歯学部へ行く。( 体験記・医療系 ) * * *   < kujila-books ホームへ帰る >

< この本の ホームへ帰る >
< 前のページへ帰る >
< 次のページへ進む >

 人生に免疫力無き方、読む事なりまッせん

第 1 章 * 3 / 5
我が29期の卒後十年目
<草間佐世子先生は画家歯科医師?>



草間佐世子先生、明海大歯学部を卒業するや、
御茶ノ水は国立医科歯科大学歯学部の、
大学院は口腔外科へと入局された。

名簿では顎顔面外科学講座とある。
何をする講座か、ワシャ知らぬ。

なれど草間佐世子先生の、
画家か歯科医師の詮議、
今も続くと記して本文に入る。


*     *     *




< 草間佐世子先生は、画家か歯科医師か? >



あれは六年次だった。 ニッキーから聞いた。 久治良さん、知っ
てる?

佐世子ってさあ、油絵で年収、五百万超えてるのよ。 ワシ、ホント
かいなと驚いた。



草間君の絵は知ってたが、それだとプロじゃないか。 年収五百万
はニッキーの想像であるから、正確な所、分らない。

かってワシ、本人に聞いた。 すると草間君、私ある美術大学の油絵
に推薦入学、決まってたの。

だけど、そこ蹴って、ここに来た。



草間君、明海大歯学部を卒業した後は、御茶ノ水の国立医科歯科大学
歯学部大学院、口腔外科へ入局だ。

顎顔面外科学講座とある。



草間佐世子センセは、御自分のホームページを出しとるから、各自
覗いて呉れ。

画家だから、絵なんかも出とる。



   *       *       *



HPで彼女の絵を見てると、いささか考えてしまう。 何故かと
言うとだナ。

草間君の外観を見るに、女の子としての魅力には、決して富んでは
いない。 むしろ劣勢と言うべし。



顔の外形は横幅に欠け、貧相と言えばお叱りを受けかねないが、
そんな顔立ちである。

なのに彼女の描く絵の人物も動物も、みんな丸顔。 横幅が極端に
拡大されて描かれる。



絵を見て、ご本人を見ると、合わないのだナ。 恐らくそれは彼女
の願望かと思わるる。

もちろん、そんな単線思考で説明の付く問題では無かろけど、とに
もかくにも、彼女の絵に登場する生き物の全て、

横幅の広い、ハッピーな表情である。



   *       *       *



明海大歯学部での学生時代、東京のド真ん中で個展なんかを開いてた
話、再三耳にした。 かなり売れたそうだ。

ご自宅は、つくば市である。 場所は分らんが油絵の教室も開いて
いたらしい。 つまりお弟子さんが居る。

歯学生の分際で、だ。



年収五百万以上は、ニッキーの想像なれど、その位は有っただろうと
想像はされる。

ひょっとしたら、もっとだったかも知れぬ。



草間君、高校時代から、油絵では認められてた。 周囲は当然、絵の
世界へ進むと思ったのだろう。

それが明海大歯学部だったから驚かれたに相違ない。



   *       *       *



ワシが草間佐世子君の絵に、最初に遭遇したのは、二年次の学園祭
だった。 明海大歯学部の学園祭は、けやき祭と申す。

そのポスターを彼女が描いたのだ。 学生出入り口のドアのガラス
に張られた、そのポスター、



歯学部の全教授と、二三のスタッフの先生の似顔絵が、びっしりと
書き込まれた、中々の傑作だった。

だけどワシは、文句、言うたった。



絵自体はプロ級である。 それは異存が無い。 ワシが文句言うた
その理由とは、絵の政治性である。

そのポスター、ド真ん中の教授が、ドカベンなんだナ。



我ら29期、その時二年次だ。 二年時は専門基礎課程が始まる。
病理、解剖、生理、生化学だ。

彼女の絵を見ると、ド真ん中が病理のドカベン。 そこから同心円状
に、我ら受講の教授連が描かれておる。



それ見てワシ、思わず、これ描(かい)た子、視野の心情が、オニャ
ン子だなあと、嘆かずに居られなかった。

学園祭、言うたら、歯学部の祭りだっせ。 だったら歯学部の力学で
教授連を配置せな、あかんやろ。



この絵では、草間君の心情世界から見た歯学部の教授連の順位にて、
描(か)かれとる。 学園祭のポスターだぞ。

草間君から見た世界を描いて、どうすんねん。 草間君の心情世界は
ネンネである。



   *       *       *



六年次だった。 解剖の時岡孝夫教授の退官記念の最終講義だった。
時岡教授はスライドで説明した。

その最後だ。 草間君の、時岡教授のマンガの似顔絵。



教授、自転車に乗って居られる。 そのマンガと言うか、挿絵
(さしえ)と言うべきか

。 文句無しに良かった。 あれなら安野光雅のさし絵より味が有る。
上手いなあ〜と、感心しちゃった。



あれなら認められる。 なのに草間君、画家しながら歯科医師。
医科歯科大の、顎顔面(がくがんめん)外科とは何事か?

ワシ思うに、草間君の外科は大成しない。 外科する奴(やつ)は、
外科面(げかずら)言うてナ。

ツラが外科で無いとあかんのだ。 草間君にそんな骨相、無い。



外科の連中を見ると、プロレスラーの如き体格のセンセ、少なく
無い。 つまり外科、歯科の口腔外科も同じで、

体力勝負なのさ。 草間君、そんな身体しとるか? 女としてさえ、
劣勢だとワシが言う位だから、

外科なんてアホかと、成りはせんか?



しかし穿(うがっ)た見方をするなら、彼女の狙いは外科学には
無い。 そこで経験して、心情を練磨するのが、

狙いかも知れぬ。



外科で経験した専門的な体験が、彼女の心情世界を嵩上げ(かさあげ)
するのだ。

それが狙いだと、言えぬ事も無い。



ただしこれ、ワシの勝手な推量ではある。 彼女から何か言うて来
たら、ここに記す。

とにかく画家で楽にメシが喰え、口腔外科にて、さらなる資産でも、
造ろうとしてるのか?

全ては君の勝手、ではあるが。



***************************************************************
***************************************************************



< 同級生同士の結婚は、岩国君のみだった。>



同級生同士で付き合っていながら、卒業してバイバイした連中は、
既に書いた。

その中でも、この岩国君だけが同級生同士の結婚で、お目出とう
言える。 でもね、誰に聞いても彼ら、

学生時代の交際、無かった。



つまり卒業して臨床研修なんかしてる内に出来ちゃった婚なのだ。
我が29期、学生時代のカップルは押しなべて成績不良。

ゴールインしたのは、わずかに彼らだけである。 岩国君の新妻の
よし子ちゃんセンセ、ワシ、良く知っておる。



それもその筈で、同じ石川県出身だからな。 よし子センセのお父さ
ん歯科医師。

岩国君センセのお父さんも歯科医師だから、歯科医師同士の二世で
ある。 お子さん出来れば三世だよ。

四世五世と続くかどうか、そんな事、ワシャ知らぬ。



   *       *       *



この岩国君、幼い頃に、ピアノを学習。 ある時だ。 明海大学
歯学部の学食には何かの勘違いだと思うが、

グランドピアノが置いてある。 たぶんカッコ付けだろう。 我らの
応接間の百科事典と同じ。

使ってるの見た事無い。



ところがある日だ。 我が29期の若衆連、それを弾いたのだ。
先生に付いて正規に習ったのは岩国君だけ。

後は見よう見真似の自己流ピアノなのに、これが仲々でナ。 あれ
は( 愛称 )デンマークだった。



デンマーク、お父さんはパナソニックの社員なんで、仕事で一緒に
デンマークへ行った。

彼、あちらでは東海大学の現地日本人学校。 チビ助なのに、柔道
なんかして、



柔道で有名な、オリンッピクの金メダリスト、あの山下先生の出張
指導なんかを受けてたそうだ。

妹がピアノのレッスン。 それを門前の小僧宜(よろ)しく、
真似して弾いたと言うのが真実らしいのに、

これが仲々のものなんだナ。



ドボルザークのピアノ協奏曲の、何番だったか忘れたが、とにかく
ワシには素晴らしく聞こえた。

言っては何だが、ワシ年中モーツアルト。 ピアノ協奏曲は特に
愛好して、戴冠式なんぞは二百回がとこ、聞いとるから、

耳は肥えとる。 ピアノ演奏には目茶うるさい。



それがデンマークのピアノに、胸、グッと成ったのだから、仲々の
ものと言える。

デンマーク、岩国君が聞いてると、やりにくいな、なんて。 謙遜
しつつ、名曲を弾いた。



その後、弾けよ弾けよと皆に促(うなが)され、岩国君、ピアノの
前に座らされ、

さて何を弾くかと、我ら固唾を吞んで居ったのに岩国君、ピアノを
パラパラと鳴らせて、それでお仕舞い。



その姿見てワシ、この子、音楽の道へ行っても成功しなかったなと
感じた。



   *       *       *



と言うのも以前、岩国君から直接、自分は音楽家の道へ進みた
かったと聞いたからだ。

歯科医師の父親が強く反対、歯学部へ進ま、されたらしい。



このHPの本、50歳までのワシの同級生賛歌の中で、ワシの中高
時代の同級生、久保田麻琴君を書いた。

彼は今やNHKにも度々出演の、音楽プロである。 つまりワシの
身近から、プロの音楽家が出て居るのだ。



その視点で見ると、久保田君は明白に、タレント性に溢れてた。
あいつならプロの世界へ行く以外、生きられないだろと、

そんな感じを持った。 岩国君には、それが無い。



むしろ、プロの音楽家の世界へなんか行っても、君は駄目だとの
思いが先走る。

タレント性が決定的に欠けて居るから、あれじゃあ楽団の下働きも
難しかろう。



お父さんは、良く見てた。 歯科医師の道が君の正解だ。 同期の、
よし子ちゃんセンセとも結ばれたのだから、

しっかと歯科医師するのが、岩国君のベストの人生だろ。 余暇に
音楽するの、一向に構わんよ。

大いにやりたまえ。



君の腕前なら重宝される。



***************************************************************
***************************************************************



< ノムさんについて。>



歯学部は、あいうえお順に学籍番号が付く。 よってノムさん、六年
間、ワシの次だった。

席順がこれだから実習も見学も全〜部、ノムさんと一緒。 おまけに
最終学年の臨床実習も一緒だったから、



ノムさんに付いては、六年間の観察歴が有る。 このノムさん、
この章の冒頭にて、卒後、黒ちゃんと協同経営にて

歯科医院を開いた事、書いた。 ワシが予告した如く、それは三年
で解消したが、こんな風に、



ノムさん、大学時代から、色々と話題の多い青年だったので、ここで
扱かわんと欲っす。

このノムさん、二面性を有しとる。 骨相からも、それが言える。
ノムさんを真正面から見ると、



前途有望な好青年である。 しかるに横からみると( 側貌観 )、
ノムさんは別人の相と成る。

だから彼の二面性には、根拠が有るのだ。



   *       *       *



まづ入学時のノムさんの弁だ。 かれは後席からワシに言うたのだ。
ボク(某有名私立)大学の法学部の三年から、

この大学(明海大学歯学部)へ来ました。



三年次からと言うのは、その時彼は、その大学で六年目だったのだ。
四年次へ進級しようと、かなりがんばって留年。

これ時間切れだから、次の年に進級しても、除籍処分と成る。
考えて歯学部へ来た。



そんな有名私立大学からなら、こんな馬鹿大学の歯学部の一般入試
なぞ、目じゃ無いわな。 アハハハハッ

と言うて、ワシとノムさん、笑い合った。



それがだよ。 六年次の臨床時実習の放射線課だった。 非常勤の
講師の先生が居られて、

ノムさんは、お茶飲み友達のベストとワシが言う位の男だから、さっ
そく話題の中心に成って、



以前の大学時代の話なんぞを、面白おかしく、したんであるが、横で
聞いててワシ、ムカッとした。

そこではノムさん、司法試験を目指す猛勉学生だ。 笑わせんなよ。
司法試験の猛勉学生だったらよ、



六年掛けて三年までしか進級出来ないなんて、そんな話、聞いた事
無いぜ。 非常勤の講師の先生は担がれて、

惜しいなあ〜、そんな有名私立大学の法学部で、しかも司法試験を
目指して猛勉してたなら。 卒業しとくべきだったね。

それは実に惜しい。 だとさ。



ワシ、よっぽど言うてやろかと思いつつ、止めた。 ところがよ。
あれは物部(もののべ)君だったかな、

ノムさんは大学時代、司法試験で猛勉してたそうですよと、ワシに
言うのよ。



ワシ、そうかいそうかいと返事しといたが、馬鹿馬鹿しかった。



ちょっと考えても可笑しいだろ。 明海大学歯学部へ来た時のノム
さんの年齢は、25才だぜ。

司法試験の猛勉学生が、25才で卒業出来ないなんて、そんな学生、
可笑しいと思わんか?

担がれてた者、反省有るべし。



   *       *       *



ワシ在学中に、同期の学生から五回がとこ、言われた。 ノムさんは
あんな成績優秀者なのに、

なんでAとかBみたい、下位の連中と親友してるのでしょうかと。
その都度、ワシは言ってやった。



君、一度、彼らが一緒の時、彼らを横から、同時に見てみよ。 それ
からワシの所へ来て呉れと。

ノムさん、書いた如く、前から見ると前途有望な好青年。 だけど
横から見ると、AやBと同じ相である。

な、なある程と、皆さん膝を打つ。



   *       *       *



卒業写真を見ると面白い。 ノムさんの写真、定規で測ったみたい
正確に、真ッ正面からの写真のみ。

ついでに言えば、ノムさんのページ、どう見ても、ノムさんが独身者
に見える。 彼は2年時に結婚してるのだぜ。



あれは臨床実習のエンドの演習だった。 ノムさん、一枚の写真を
我らに見せた。

それ、結婚式での奥さんの写真だ。 中央に立つウエディングドレス
の女性が奥さんなんでしょが、それはよい。



問題は左右に居流れるお友達だ。 よくもまあ、こんなブスを集め
られた、ものですなあと、感心したく成るよな、

ドドドドブスばかりなのだ。 ワシ、その写真を見て、まず驚き、
次いで笑ってしまった。



つまりノムさんと奥さんは、似た者同士なのだ。 ノムさんも学生
が、なんでノムさんは、あんな連中と親友するんでしょと、

言われる程の下位連中と親友してた如く、ノムさんの奥さんも、
よくもまあ、こんなドドドブスと、

お友達されてますなあと言えるわけだ。



ノムさん夫婦は、よりて、似た者同士のカップルなんである。



   *       *       *



ノムさんの卒業時の順位は、良くなかった。 ここで卒業時の順位を
書いて見る。

一番で卒業は、長沢悠子君( 通称 お長:おなが )
二番は、藤井敬士君( 愛称 富士三太郎 )

三番は、松村朋香君( 愛称 村松君 )



四番はワシだ。 通称 醜いお年寄り。 五番は、青木仁君。 通称
ミスター29期。

この青木君と、あらゆるテストにトップを取った長沢悠子君に、
卒業時、宮田賞が与えられた。



明海大学の創立者は、宮田慶三郎先生であられる。 岐阜県の朝日
大学も同じだ。 ご存知や?

だから成績優秀者に授与される賞は勿論の事、長沢悠子君は、この
宮田賞をも獲得した、優れ者である。

長沢悠子君は大学の賞と言う賞を、全総なめして卒業した。



   *       *       *



さて五番以下、十番までは順不同、愛称にて並べる。 すなわち
ニッキー、ゼニ(銭)ッ子、トノ(殿)、物部(もののべ)の

矢太兵衛と来て、残り二名は、谷中町(やなかちょう)の
御曹司と、可愛い子ちゃん。



この内の、谷中町の御曹司君は、五年次、夏休み明けの登院テスト
では21位。

六年次、進級直前の入れ替え戦では46位だった。 それが卒業試験
にて上位十番内へ入ったのだから、その頑張り、

何かの賞を授与しても良かった。



これは、卒業四番のミスター29期も同じ。 彼の登院テストは
38位なれど、入れ替え戦では17位に上げた。

そして卒業試験の順位が四番だから、ラストスパートの糞頑張り派
の筆頭である。



ワシがミスター29期の名を献上した位だから、トップ卒業のお長
(おなが)と共に、名誉の宮田賞の授与は、当然だ。

率直にオメデトさんだッ



   *       *       *



また、十番内を狙ってたノムさんと、いわゆるパナダンゴ(団子)
君は、十番から外れた。

最終学年の卒業試験、断トツの頑張りにて、急上昇するの、決まって
男の子。



我ら29期では、ミスター29期と谷中町の御曹司君が、それに
該当する。



   *       *       *



ここに問題が二つ有ってよ。 この宮田賞、ノムさんが受賞狙いの
運動をしたのよ。

ワシ、いささか呆れて、口あんぐりだった。 それはこうだ。 我ら
29期の学年担当教授が、病理のドカベンでナ。



常識で考えれば誰だって、宮田賞の選考は、ドカベンの発言力が
大きいと考えるわな。

実際、有力な推薦人だったと思うよ。 そこを狙ったのだろうか、
このノムさんがよ。



六年次の終盤だった。 国家試験に向けた病理の知識の整理、みたい
事を、ドカベンに提案したのよ。

そして相当の労力をつぎ込んで、口腔病理のマトメ的なスライド
ショーを作成したわけだ。



いやはやドカベンの感心した事たるや、賞賛、置く価(あた)わずっ
てのは、あんなのを言うのだと言わぬばかりに、

ノムさんをベタ褒(ほ)めした。 こんな熱心な学生は、見た事
無いってな具合にだ。



でもねえ、ドカベン教授様よ。 ノムさんの宮田賞狙いの下心、
教授には見えなかったのですかと、

ワシ、聞きたかった。 だからドカベンは足りない言われるんよ。



   *       *       *



あそこまで、あらかさまな受賞運動、するなッ、ツ〜のよ。 こち
とらまで顔が紅く成っちまうよ。

それでノムさん、宮田賞はどうなったのかと言えば、論外。
卒業トップのお長は、こりゃ外せないし、



もう一人をどうするかと成れば成績が物言うて、ミスター29期と
ノムさんの順位では、

こりゃ勝負に成らぬ。 ノムさんが少なくとも、卒業試験で五番内
だったら良い勝負だったかも知れぬが、



後で聞いても、宮田賞の選考は、議論にも成らず、お長とミスター
29期で、すんなりだったそうな。

そりゃそうでしょ。 するとノムさんの運動も水の泡ってとこだ。
だからそんな運動、するなっちゅうのよ。



***************************************************************



さてこのページの最後に、上に出た谷中町(やなかちょう)の御曹司
について、少し書く。

二年次だった。 時岡孝夫教授の人体解剖の実習よ。 ワシ、最初に
配当された組で喧嘩して、



一番前の時岡教授の組へ島流しされた事。 表本(おもてほん)に
書いた。

なにしろ最初の組。 29期、最強の王族女が居てよ。 人体解剖
一人でして、誰にも触らせないのよ。



誰にもの中には、ワシが居たわけだ。 言っては何だが、こちとら
稀代の出しゃばりジジイだぞ。

解剖実習の時間、ずっと見学なんて、そんなの拷問である。 ワシ
危うくその王族の女と、



実戦するとこだった。 際(きわ)どい所にて時岡教授に助け
られた。 ホントに危なかった。

だけど、ワシ以外の四名の学生。 ちゃんと見学しとる。 あの神経
ワシには無い。 それでスタッフの先生に叱られた。



あなたは良い年こいて、大人気無いわよ。 だけど、あれほど極端な
女の子の我がまま、

注意しないのも如何かと、ワシは思うのだがナ。 詳細は表本に
譲るが、彼女に愛称を奉(たてまつ)ったので報告す。

愛称、ハイエナだ。



このハイエナ君、明海大学付属病院に残留して患者を診てる。
付属病院へ行けば会える。

知らずに治療を受けた患者も多かろうと思う。



   *       *       *



彼女、現在、四十三かな? 大学時代の、あの解剖実習の時の年齢は
28だぜ。

他大学の薬学部を卒業して、実社会を三年間体験しながら、あれだ。
あれは確か、トラブルの直後だったと思う。



生化学の前教授、加藤節子先生だったように記憶す。 ワシ、何で
あんな女を合格にしたのかと、文句言うたったのだ。

節子教授、あの時の学士入学は最初でしょ。 四名枠(わく)に、
応募者が七名しか居なかったのよ。



三名までは直ぐ決まったけど、四人目で、結局、あの子しか見当たら
なかったのよ。

今じゃ、あんな事。 起こり様も無いけど、最初でしょ。 やっぱ
勘弁して貰(もらわ)なきゃ。

そんなものでしょうかね。



   *       *       *



谷中町(やなかちょう)の御曹司君は、ここから出る。 ワシが
上記の如きトラブルにて、

時岡孝夫教授の組へ来て見ると、隣の組に、この御曹司君が居た。



そこでワシ、時岡教授の代理みたい調子でハッスルしとったら、
御曹司君に冷や水を浴びせられた。

久治良さんは何の資格にて、ボクらに命令するのですかと来たね。
ワシとしては、別に命令なんぞ、して居らぬ。



時岡教授が言うた事を伝達しただけのつもり。 だけど谷中町の
御曹司君には、それが気に入らなかったと見える。

よってワシ、それ以後は、大いに自重したつもり。 世の中、色々
有りますなあ〜。



   *       *       *



この谷中町の御曹司君、その骨相を観て特徴的なのは、鼻より下が
未発達である。

鼻の相は向うッ気の強そうな、いわゆる鼻っ柱の太いって奴だ。
これは歯科医師として悪く無い。



ただね、鼻より下が、いささか、すぼまっていて、横一文字の口唇
(こうしん)が、ほっぺからほっぺへ、横断した顔貌である。

もっと問題は、その全身体型の有様だ。 前から見ても判らない。
御曹司君に歩かせて、背後から見よ。



腰の幅が余りにも狭いから、君、何処か悪いのかと、心配して聞き
たく成る程に狭いケツだ。

それやこれや、やっぱ、ワシに、あんなセリフを吐くだけの骨相
なんである。



ワシは彼の邸宅へ行った事、無いけど、行った奴に聞いて見ると、
谷中町の御曹司君とこは、道路に囲まれた一区画全体の、

広大なるお屋敷なんだそうである。 木の橋を渡りて、お屋敷へ入る
そうである。



だけどあの、幅(はば)の狭い彼のケツを想い出す度に、ワシは
何となく、ニャロメと言うてしまう。

何故(なぜ)かは知らねども。



**************************************************************



( 次ページへ進む。)









*       *       *


< 前のページへ帰る >  *  < 次のページへ進む >

< この本の ホームへ帰る >


< kujila-books ホームへ帰る >



* 


<  kujila-books.com  >