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第 二 章  3 / 6 

< 嵐? それ思い違い、では? >


< 現代若者の、サイズを、考える >


ガリバー旅行記では無いが、最初の一年間、奇妙な感じに、苦しんだ。
サイズの感覚、狂うのだ。

ワシの身長、170センチ。低い方ではない筈、なのに、学生の群れに
混じると、ありゃりゃ、小人に成ってしまう。


遠くから見れば、ネンネ面(ずら)。 小さく見えるのに、
向き合って話しすると、首、痛くなる。 見上げて話すから。

ワシより平均10センチ、背が高い。
サイズの感覚、狂ってしまう。


ある時、カリフォルニアにこの件を話すと、彼、逆を言うのだ。
へエエ、ボク、久治良さんの、反対ですよ。

アメリカに六年間、居たでしょ。 こっち帰って来て、日本人見ると、
背が三十センチばか、低い。 人間が、縮んだみたい。


このギャップ、慣れるのに、一年掛かりましたよ。 ワシ、ヘエエッ!
世の中、聞いてみなきゃあ、判らんものだ。 かく言うカリフォルニア、

180センチの大男、なんだ。(アメリカではチビ扱い、された)
日本人、大きくなったと言われるけど、あちら、さらに30センチ、大きい
んだ。


日本の女の子も、大きくなったなあ。ワシ、入学した頃、180センチの
女の子に、何だこの、へんなオッサンは、と言う目で、見下された経験、

有る。180センチで、ハイヒール、履か(はか)れてみろ。見上げな、
あかんわ。


こうなると、昔ながらの百五十センチ、胴長短足の女の子、

奇妙に見えてくる。 英会話、身長198センチのイギリス人、こんな
女の子見て、何を思ったか? 聞いとけば良かった。


今度は身体に、触れてみる。 皮下脂肪の厚さ、ワシらの頃と、だいぶ違う。
朝の、中央階段だった。前を行くのは、A君ではないか。

ヨオッ、お早う! 声掛けながらワシは手を、彼の背中に、ポンすると、
脂肪の厚さ、四センチ。 ボヨン、ボヨンと波を打つ。


別の時間、実習の早上がりして、お先に、言うて、立ってた男の子のお腹、
ポンしたら、ボワン、ボワンだ。 ありゃ、メタボと皮下脂肪の、二つだね。


我が二十九期、体重百キロ超、数人。
入学初年度に、脂肪肝の診断受けた学生、多数。 その他、糖尿病、高血圧、
高脂血症、こりゃあ既に、成人病ぞなもし。 生活習慣病だ。

この若者たち、日本人の平均寿命、確実に短縮する。
二十歳にして、太り過ぎ。 走ることさえ、ままならぬ学生、居るのだ。

こんな男の子に触れると、男と言うより、女の子の身体に触れたような感じ
になる。 ワシの世代の感覚、気味悪い。


これじゃ、歯科医師に成っても、やがて健康問題で、仕事、出来なくなるぞ。
女の子に言ったもんだ、あんな身体、男の身体と思わないで。 しかしだ。

あんな脂肪体に触れていると、昔よく居た、骨皮筋衛門(ほねかわすじ
えもん)、逆に気味悪い、なんて事に、なるかも。 時代、なんすよ。


 *       *       *


肥満、すでに病的。 病的肥満である。
五年次の臨床実習だった。 小児歯科で、驚いた。

三歳の男の子で、あるぞ。 生活習慣病を、ご発症、されておる。
三歳だぜ。 いわゆる、ドテかぼちゃ。 たぬきの置物。


ねずみの実験で、長寿一番は成長期、栄養十分なれど、カロリーは不足気味、
運動しっかり。 中年以降、良質の食事、充分の組。

短命組は、成長期から晩年まで、好きな限り、たら腹(ふく)飽食。
太って、運動できない位。 我ら二十九期、ネズミの実験、考えてみるべ
き者、少なく無い。 肥満はがん発生の、因子だっせ。


それから、酒とタバコ、自由な生活(不摂生な生活では無い)は、短命に
ならない。 これを、フインランド症候群と言う。

40歳から45歳の男女、1200名、二つのグループ。
健康管理バッチリの組と、ぜんぜん何もしなかった組。 当然、健康管理
の組、長寿の筈だった。 しかるに結果、反対。


フインランド保健局、発表、しなかった。 フランスの雑誌社、スクープ
して、ばれた。

ガン、心臓血管系の病気、高血圧、自殺が、好きに生きた組には、少なか
った。 そう言えば、昭和天皇陛下、ごつう管理された生活、ガンに成ら
ない食事。 なのに管理のし過ぎで、ガンを促進されたのか?


 *     *     *


昭和天皇が出たので、私見を一つ、書こうと思う。
陛下の最後は、誰が指示したのか知らんが、時代に逆行する、まずい方針。

すい臓ガンであられた陛下は、ものすごい輸血で、その寿命を何ヶ月か、
延長された。 どれだけの意味、有ったのか?


世は、尊厳死(自然な死期を、大切にする。つまり余計な延命をしない)
時代。 昭和大行天皇の死は、新しい時代の風を、理解しておらん。

陛下は最後、もう、いい加減にしろと、仰った(おっしゃった)そうだ。
どんなに苦しかったか。 あれだけ輸血して、一体、どれだけ長生き
されたと言うのか? 苦痛を忍ぶだけの価値、有ったのか?



< あらし? 戦争? 思い違いでは? >


順序、逆だが、人体解剖学実習の、翌年だ。 材料学の実習である。
ワシ、思う処ありて、腕力も視野に入れた、強権を発動した。

器具を用いて、材料強度の測定。 八名に割り振りして、平等に作業させた。
完全なる平等だ。文句言う者が出たら、蹴飛ばしてやろうと、悲壮なる決意。


結果は、争いも無く、平穏無事に終了。 
八名の中には、去年の戦争相手も居たのだ。 ワシ、えこひいき全く無し。

好きな奴も、嫌いな奴も、完璧に平等。 同じように作業を分配した。
この子たちの心に、何かを伝えようとして。


成果? 全く無し。完全なる徒労。 無駄骨折り。 ワシのした事の意味、
考えようともせん。 この子達、日本人? ワシが身を張って示した、平

等の姿。 何の波紋も、起こさなかった。 ゲーテが言っとる、泥沼に石
を投げても、ドボンで終りだ。 波紋、起こらない。


一人の女の子に、後で聞いた。 (この子今、三十歳の歯科医師だ)
ワシのした事、どう思う? 

エッ? 久治良さんのした事? あのビッカースの硬度試験のこと?
違う! みんなに平等に、作業を割り振った事。


彼女、ポカンとして、ワシの言った意味、しばし理解せん。
ああ、あれ。 フフフッ。 何が可笑しいのだ?
だって、久治良さん、自分がしたけりゃ、すれば良いじゃない。

何も、平等、平等って、大騒ぎしないでよ。 あれじゃ、この人、気が
良いなあって、笑われちゃうわよ。 A子さんと喧嘩してるんなら、

彼女にやらせちゃ、駄目でしょ。 あんな事してたら次、
馬鹿にされるわよ。


ワシ、深刻に悩んだ。確か、こいつ等、日本人だろ、感覚違うぜ。
いつからこんな、変なルールになったのだ? それとも、ワシの方が、狂

ってたのか? 去年、あんなに大騒ぎしたのも、勘違いの与太話だったの
か? 二、三名の先生に、聞いてもらった。


そりゃ、久治良さんが正しいですよ。でもね、今の子は、皆んな、そんな
中で成長してるから、わがままな子が、勝手に一人で実習するの、変と感
じ無いわけよ。 幼稚園から、そんな感じなんですよ。



< 現代の若者の、一断面。 ある先生のはなし >


話違うけど、成績の悪かった子、ものすごくフレンドリーに、親しそうに
来るわけよ。つい甘い点を付けて、進級させる。するともう、しらーッとして、

廊下で会っても、知らん顔だからね。 ボクらの時代の感覚と、違うのよ。
都合の良い時だけニコニコ顔、用が済めば、ポイ捨てされる。


だからと言って、イチイチ腹立てても始まらないし、そんな時代に成ったのだと
割り切って付き合わないと、損するよ。 ワシ、思うに、ここは歯学部だ。

何か抵抗の一つも、して欲しかったなあ。


大学の事情通に言わせると、こんな風になったのは、十年前からだそうだ。

同じ明海大歯学部卒でも、最初の十年、次の十年、今の我らの十年は、
随分、違うそうだ。 学生の気質。別物だそうだ。 おいおい語る事にしよう。

材料学の実習、ワシが、あれ程、気合を入れてした事。
事実の上において、何の効果も無かった。 くじ運が悪くて、王女さまに

当った日には、一日、見学だ。 あのむなしさ、あの馬鹿馬鹿しさ、諸君、
理解出来るかね? 大学は、何で黙っているのだ。ここは歯学部だぞ!
アカデミックが聞いて、厭(あ)きれるぜ。 見識、有るのか? ホンマ!


何度も言うように、平等に作業してる班も、有るのだ。ネンネを、
のさばらすなよ! 君、次の人に、代わりなさいの一言が、何で言えんのじゃ。
こんな簡単な道理も、判らん様な教員は、教える資格、無しだぞ。 恥を知れ。



< 私語、居眠り、皆無の、パソコン講座 >


キーボード初体験のワシ、パソコン入門講座、若い人の、足手まといかな?
心配したが、さしたる事も無し。胸、なでおろしのイチ場面、でした。

デザインなど、むしろ我が輩のセンス、若い人よりパンチ、有ったぜ。


それに付けても、私語、居眠り、横行する授業で、パソコン講座のみ、
若者のひとみ、キラキラ。 時間足りない。延長して欲しい。授業終了の

チャイムが鳴るや、次の時間の学生、どやどやと入室。授業、終わりました。
替わって下さい。 早く、どいて下さい。 ニャロメ、ですよ。


ワシ、担当の新井公夫先生に言いました。
先生は、明海大歯学部で、一番幸せな先生です。 先生、アハハッ!

そうですか? そうですよ。学生、全滅の中で講義してる先生
居られるのに、このパソコン講座だけ、学生の目、キトキトですからね。


キトキトは、石川県の標準語(方言)。 生き生きしとるの意。

もっともワシの腕前、さっぱ進歩せんのが、玉に瑕(たまにきず)。
原稿用紙一枚、一時間では、話にならんわい。


このところ講義、全てパソコンと、プロジェクターなんね。
黒板に字を書く先生、希少価値。 佐渡島の、トキ。(絶滅寸前)

よって、パソコンの調子、悪かったりすると、情けない授業とは、なる。
世の中、コンピューター無しでは、日が暮れない。


 *     *     *


次の段、ワシ、問題児ならぬ問題じじい、本領を発揮。 教授会を揺るがす
大騒動を惹起(じゃっき)した、前半の山場を、書く。 乞う、ご期待!



*     *     *



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